生活習慣病の基礎知識

喫煙

きつえん
Smoking

分類:生活習慣病の基礎知識 > 生活習慣病の危険因子

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有害物質と発がん性

 たばこの煙は、喫煙者の肺内に吸い込まれる主流煙と、火のついたたばこの先から立ちのぼる副流煙があります。喫煙者から吐き出される煙を呼出煙といい、副流煙と混じり合ったものを、「環境たばこ煙」と呼んでいます。

 ニコチン、タール、一酸化炭素、これらは俗に「たばこの3悪」と呼ばれ、たばこの煙に含まれる代表的な有害物質です。たばこ煙には4000種類もの化合物が含まれており、そのうち200種類以上は有害物質で、40種類以上に発がん性があるといわれています。

 こうしたたくさんの有害物質を、毎日体に取り込んでいたらどうなるでしょうか。体によいはずがありません。喫煙によって発症の危険性が高くなる疾患を「喫煙関連疾患」といいます。

 喫煙は肺がんをはじめ、多くの疾患の発生に関与します。肺がん喉頭がん、口腔・咽頭がん食道がん胃がん膀胱がん、腎盂・尿管がん、膵がんなど多くのがんや(図7)、虚血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患COPD)、歯周疾患など多くの疾患、そして低出生体重児や流・早産など、妊娠に関連した異常の危険因子です。

 まさに頭からつま先に至るまで、体中にさまざまな疾患が起こる危険性があります。喫煙が「緩慢なる自殺」と呼ばれるのはこのためです。近年は喫煙率、一人当たり消費本数は減少しているものの、たばこの身体への悪影響はかなり遅れて出現することから、喫煙関連疾患による死亡者数も増加の一途をたどっています。

 わが国におけるリスク要因別の死亡者数の検討では、喫煙が最も死亡数に影響していることが判明しました(図8)。喫煙者の多くは、たばこの害を十分に認識しないまま、未成年のうちに喫煙を開始した人が多いようです。これらの人たちは、成人になってから喫煙を開始した人に比べて、たばこ関連疾患にかかる危険性はより大きくなります。

 さらに、本人の喫煙のみならず、周囲の喫煙者のたばこ煙による「受動喫煙」も、肺がんや虚血性心疾患、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群などの危険因子です。

 逆にいえば、たばこを吸わないこと、あるいは禁煙することはたいへん効果的な疾病対策ということができます。喫煙が将来もたらすであろう数々の疾患を予防することになるからです。

たばこの社会的影響

 喫煙者が吸っている煙だけではなく、喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチンやタールをはじめ多くの有害物質が含まれています。本人は喫煙しなくても身の回りのたばこの煙を吸わされてしまうことを受動喫煙といいます。

 たばこが原因で2014年度には100万人以上が、がんや脳卒中、心筋梗塞などの病気になり、喫煙で1兆1700億円、受動喫煙で3200億円の医療費が発生し、患者数は喫煙で79万人、受動喫煙で24万人にも上っています。

非喫煙者保護

 1960年代の欧米先進国では、たばこによる疾患や死亡がすでに現在の日本に近い状況であり、このころよりさまざまなたばこ抑制策(消費者に対する警告表示、未成年者の喫煙禁止や、公共の場所の禁煙、たばこ広告の禁止などのさまざまな規制や、たばこ税の増額など)を講じた結果、国民の喫煙率や一人当たりのたばこ消費量が低下しました。その成果は最近になってようやく、男性におけるたばこ関連疾患の減少という形で現れつつあります。

 日本においては、厚生労働省、人事院、東京都などが、指針を示して分煙の環境づくりを進めてきました。その結果、公共の場所、とくに鉄道・飛行機などの輸送機関における禁煙・分煙はかなり進んできましたが、多くの職場やレストランなど、その他の施設では不十分であるとの現状が指摘されていました。

 2002年、厚生労働省は健康増進法第25条により「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」こととしました。

(東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授 和田高士)

図7 喫煙の人口寄与危険割合−男性図7 喫煙の人口寄与危険割合−男性

図8 わが国におけるリスク要因別の関連死亡者数-男女計図8 わが国におけるリスク要因別の関連死亡者数-男女計