食道・胃・腸の病気

食道がん(上皮性)

しょくどうがん(じょうひせい)
Esophageal cancer (epithelial)

初診に適した診療科目:気管食道科

分類:食道・胃・腸の病気 > 食道の病気

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どんな病気か

 消化管の「がん」は、口腔・食道・胃・十二指腸・小腸・大腸など食物が通過する消化管内腔の粘膜面(上皮)から発生します。このうち食道がんは、下咽頭から胃に至る28㎝くらいの長さの食道粘膜に発生するものをいいます。

原因は何か

 今日では、さまざまながん遺伝子の変調が指摘されていますが、各遺伝子の関連はまだ明らかにされていません。日常生活での誘因としては、過度の飲酒歴、喫煙が指摘されています。いわゆる慢性の長期にわたる刺激因子が重要視されます。

 アルコール摂取との関連では、最近、アルコール代謝酵素欠損が、食道がんの原因として重要であることがわかってきました。わかりやすくいうと、ちょっとお酒を飲んだだけですぐに赤くなってしまう人が、だんだん慣れてきて、たくさんお酒を飲むようになると、食道がんになる危険性は通常の人の何十倍にもなるということです。

症状の現れ方と診断

 食道がんは症状が出にくいので、食べ物が飲みにくいなどの嚥下障害が現れた段階では、進行食道がんであることが多くなります。

 早期の段階で診断するには、粘膜がんの状態で発見することが必要ですが、この段階ではほとんどの症例に自覚症状はみられません。粘膜がんの状態で治療されるような症例は、上部消化管内視鏡検査を含めたスクリーニング検査で発見されています。たとえば、人間ドックや検診で胃の異常を指摘され、内視鏡検査を受けた際にたまたま食道に発赤粘膜やわずかな凹凸病変などを指摘された人たちです。

 ほかの消化管がんでも同じですが、今日では粘膜がんであれば内視鏡で治療できるようになっています。ところが、進行がんになればリンパ節郭清を含めた手術が、患者さんの予後向上のためには必要になります。

 食道がんでは、胸腔内・腹腔内・頸部切開による3領域のリンパ節郭清を伴う胸部食道切除と、胃または大腸による28㎝くらいの長さの代用食道の作成が必要であり、これが食道がん外科手術の基本操作ですが、患者さんにとっては大きな侵襲となります。

 そのため、できるだけ早期の段階で、がんを診断することが最も求められます。また、がんの深達度(食道壁内のがん浸潤の深さ)が予後に影響するので、その診断が重要です。

治療の方法

 食道がんの治療法としては、低侵襲性(患者さんに優しい)の内視鏡による粘膜切除術から、放射線・化学療法さらには外科手術(鏡視下あるいは開胸・開腹)と多くの選択肢があります。しかし、治療法の選択基準はすべて、がんの進行度によります。

 がんの進行度は、がん深達度とリンパ節転移の有無、そしてほかの臓器(肺、肝臓、骨など)への転移の有無で決定されます。とくに、がんの深達度が大きな要素となります。食道の壁の構造(図16)は、伸展した状態で3〜4㎜の厚さです。この厚さのうち、どこまでがんが達しているかで治療方針を決めるので、正確ながんの深達度診断が重要です。

 がん深達度の診断には、ルゴール液などの色素を用いた食道内の精密内視鏡検査による、がん表面のわずかな凹凸からの診断、EUS(超音波内視鏡)・CT・MRIによる診断が行われています。それぞれに特徴があり、病巣の深さによって選択されています。

 日本における深達度の浅い症例(粘膜がん)での治療成績をみると、内視鏡的粘膜切除術と外科手術の成績に差はみられません。したがって、現在では粘膜内の浅いがんに限れば、内視鏡治療が第一選択とされています。

 粘膜層を超える深達度が推定される症例では、CT・MRI・EUSでリンパ節転移の有無と分布を把握し、個々の症例に応じた個別の治療方針をたてます。

 初めから外科手術を選択するか、放射線化学療法(CRT)を選択するか、CRT後に効果のある症例には外科手術を行うか、あるいはそのままCRTを継続するかは、食道がん治療の専門学会でも2009年現在、まだ最終的な結論は得られていません。

 実際には、それぞれの治療法の成績、合併症、後遺症について詳しく患者さんに説明し、最終的には患者さんご自身に決定してもらうことが多いです。

 さらに進行し、食道周囲臓器への直接浸潤がみられた症例に対しては、以前は積極的に外科的な合併切除が行われた時代もありましたが、労力の割には患者さんの負担が大きく、予後の改善が得られないという結論が得られており、今日では消極的です。

病気に気づいたらどうする

 2007年に日本食道学会(旧日本食道疾患研究会)から、全国の食道がん治療の標準化を図るために、ガイドラインが発刊されています(金原出版)。これにも記述されていますが、食道がんの治療法や治療成績は各施設で異なり、統一見解を提示することはできません。ただし、日本食道学会で毎年行ってきた全国の食道がん登録成績結果報告があります。

 食道がんの専門医は全国におり、食道がんの診断法・治療方法・治療法ごとの成績を把握しています。治療にあたっては、地域を中心に、食道がんのキーワードでインターネット検索をすることをすすめます。

(北海道大学病院第三内科講師 清水勇一)

図16 食道表在がんの深達度亜分類図16 食道表在がんの深達度亜分類