肝臓・胆嚢・膵臓の病気
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C型慢性肝炎
しーがたまんせいかんえん
Chronic hepatitis C
初診に適した診療科目:消化器科 内科
分類:肝臓・胆嚢・膵臓の病気 > 肝臓の病気/肝炎
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どんな病気か
C型肝炎ウイルス(HCV)に感染し、肝機能の異常が持続的に続く病気です。通常、6カ月以上にわたって肝炎が続く場合を慢性肝炎といいます。
ウイルスに感染後、急性肝炎を発症しても、ほとんど症状は現れません。しかし、無治療だと約7割でウイルスは排除されず持続感染に移行します。この状態になると自然治癒するのは極めてまれで、大部分の人が慢性肝炎になります。
C型慢性肝炎ではHCV抗体が陽性を示します。日本国内でHCV抗体が陽性の人は、100万人いると推測されています。年齢は40代以上に多く、輸血などの医療行為による感染が背景にあることが知られています。
C型慢性肝炎は、放置すると肝硬変や肝がんに移行する危険のある病気です。しかしその進行はゆるやかで、C型慢性肝炎だけでは命にかかわることはありませんが、放っておくと10~30年かけて確実に肝硬変、肝がんへと進行していきます。現在、肝がんの約6割でHCV抗体が陽性です。
原因は何か
C型慢性肝炎の原因は、C型肝炎ウイルスによる感染です(コラム)。
症状の現れ方
C型慢性肝炎の場合、自覚症状がほとんどないのが特徴です。
C型肝炎ウイルスに感染しても症状は、他の急性肝炎と異なり、ほとんど出ません。そのまま症状もなく、慢性化する人がほとんどです。ごくまれに、全身倦怠感に引き続き食欲不振、悪心、嘔吐などの症状が出現することがあります。
しかし、進行し肝硬変になると手掌紅斑、クモ状血管腫、女性化乳房などが認められることがあり、非代償期(肝硬変)には、浮腫、腹水、黄疸、食道・胃静脈瘤、肝性脳症(意識障害)などの合併症が現れることがあります。
検査と診断
C型慢性肝炎における肝障害の程度を正しく診断することは、病気の予後や治療法を判断するうえで重要なことです。診断は、主に血液検査で行われます。血中のALT(GPT)、AST(GOT)値で肝炎の状態を調べるのに加え、ウイルスマーカー検査(HCV RNA)でC型肝炎ウイルス感染の有無を調べます。HCV抗体陽性のみでウイルスの存在の確証とはならず、HCV RNAの検査が必須です。
ALT、ASTは肝細胞中にたくさん含まれる酵素で、肝臓に障害が起こり、肝細胞が破壊されると血液中に流れ出すため、値が高くなります。なお、慢性肝炎では、ALTとASTは変動するため、基準値内(通常35以下)の値を示すこともあります。
①肝の硬さ(線維化)の評価(図1)
かつては、肝生検(肝臓のごく一部を採取し顕微鏡で直接観察する検査)で、線維化の程度と肝炎の活動性を診断することがありましたが、侵襲を伴うため現在はほとんど行われていません。肝線維化の程度を示す指標にはF(Fibrosis‐線維)分類があり、F0(正常)、F1(慢性肝炎‐軽度)、F2(慢性肝炎‐中程度)、F3(慢性肝炎‐高度)、F4(肝硬変)の5段階に分類されます。慢性肝炎は幅が広いので、F1からF3と3段階に分かれます。肝硬変は、名前が示す如く、線維化のために肝臓が硬く変化することをもって肝硬変と呼びます。我々の研究により、この段階が1段悪化するまでに平均で10年以上かかることがわかってきました。
したがって、平均的な経過をたどると、ウイルスに感染してからの年数で、自分がF分類のどの位置にいるか、例えば輸血から30年だとするとF3が推察できます。ただし、飲酒量が多い、あるいは肝機能検査のALTの数値が高い人は、悪化するスピードが速くなります。
②血小板数で線維化を推定する
なお、このF分類を正確に把握するには肝生検が必要ですが、上記の理由、すなわち侵襲性を伴うことにより、今はほとんど行われていません。そこで、代わりとなるのが血小板の数です。どこでも行われる血小板数の検査で、線維化の程度を予測できることを我々は明らかにしました。血小板数が20万以上であればほぼ正常、13万を下回ったときにはF3に立っていることが推定され、10万以下では肝硬変(F4)、ときには肝がんを伴っていることさえあります。すなわち、血小板数を知ることによって、自分の肝の状態(線維化)、さらには肝がん発生の危険性を推定できます。
③ファイブロスキャン(Fibro Scan)
もう一つ、肝の線維化を知る方法があります。近年導入されたファイブロスキャンという機械です。超音波の原理を用いて、肝の硬さ(線維化)の程度を知ることができます。これでの値は、高ければ高いほど、肝硬変に近いことがわかります。これらの評価は、専門医により行われることが多く、後述する治療とともにご相談されることが好ましいと考えられます。
治療の方法
C型慢性肝炎の治療は、肝臓がんを予防することが目的となります。治療方法には、肝細胞の線維化を遅らせて、病気の進展を抑える治療(肝庇護療法)と、ウイルスの排除を目指す治療(根治療法)があります。後者は近年大きく進歩し、ほぼ100%のウイルス駆除が可能となりました。
1992年以来、インターフェロンという注射薬による治療が行われていました。インターフェロンはしかし、発熱などの副作用が強く、現在は飲み薬(経口薬)による治療で、ほぼ100%、C型肝炎ウイルスの駆除ができるようになり、このインターフェロン治療はほぼ行われなくなりました。
飲み薬による治療、それも多くの製剤が12週間の服用でC型肝炎を治すことが可能になりました(コラム)。
病気に気づいたらどうする
C型肝炎ウイルスに感染していると判明しても、このウイルスは通常の日常生活では他人に感染する心配はほとんどないため、必要以上に神経質になることはありません。ただ、カミソリなどは共有しないようにしてください。万が一、鼻血や切り傷などで感染者の血液に触れることがあった場合は、すぐに水で血液を洗い流すことが大切です。
食生活では、栄養バランスのとれた食事をとることが第一です。なお、かつては鉄分をとりすぎないことが大切である、あるいは、高蛋白食がすすめられたこともありますが、むしろ現在では、高蛋白食は肥満や脂肪肝を招きかねないのですすめられていません。すなわち、ウイルスそのものの駆除療法の進歩により、患者さん自らが食生活を改善する必要があまりなくなっており、むしろ生活習慣病の発生予防が大事と考えられています。
さらには、かつてはストレスがたまると肝臓病が悪くなるという考えもありましたが、これも科学的根拠のないものと見なされております。
激しい肉体労働は難しいかもしれませんが、むしろ、バランスのとれた食事をとり、ストレスをためすぎないような仕事であれば、気分も変わり食欲も増してくるので、健全な生活を送れるものと考えます。
C型肝炎ウイルス(HCV)
C型肝炎ウイルス(HCV)が発見されたのは、1989年のことです。
HCVに冒された肝細胞は、免疫機能によって破壊されては再生しています。この修復の過程で、肝臓では10〜30年以上かけて線維化(皮膚の傷跡のように、元どおりに再生せず硬くなってしまうこと)が進み、次第に肝臓は「結節」(こぶ)ができて硬くなっていきます。
肝線維化の程度を表す指標にはF分類があり、おおむね年間発がん率はF1(軽度)で0・5%未満、F2(中度)で1・5%、F3(高度)で5%、F4(肝硬変)で8%と線維化が進むほど発がん率が上がることがわかってきました(図1)。
また、HCVの感染により、肝臓以外の臓器も冒されることがまれにあります。HCV感染はクリオグロブリン血症による腎炎、HCV腎炎、心筋症、リンパ腫、シェーグレン症候群(ドライアイ、ドライマウス)、晩発性皮膚ポルフィリン症(光線過敏性皮膚炎など)、扁平苔癬、糖尿病などの原因になりうることが知られています。
HCV感染のほとんどは血液を介したものです。輸血や手術などで使われた血液製剤によって感染したと思われる場合が多く、ほかに注射針を介しての感染が考えられます。
いずれもHCVの存在がわからなかった時代のことで、今は検査法も確立されているのでこうした感染はまず心配ありません。ただ現在でも刺青・薬物注射といった行為で他人と器具を共有すれば、感染の可能性はあります。
自分がC型肝炎ウイルスに感染していることに気づいていない人は、まだまだたくさんいます。40歳以上で過去に輸血や手術を受けたことのある人、若い人で刺青などで他人と器具を共有したことのある人で、C型肝炎ウイルス検査を受けたことのない人は、一度調べてみてください。検査は保健所でも可能ですし、検査費補助のある自治体もあります。
100%のC型肝炎ウイルス駆除に向けて
1992年から始まったIFN(インターフェロン)治療(注射薬)は、多くの患者さんのウイルスを駆除することに成功しましたが、その副作用のために理想的な治療とはいえませんでした。
しかしながら、研究開発の進歩により、飲み薬で、しかも12週間でほぼ100%ウイルスを駆除する方法が登場しました。この飲み薬は、安全性も高く、ほぼ日本におけるC型肝炎患者さんの全例からウイルス駆除が可能となりました(表1)。
この飲み薬は、大きく2つの種類に分かれます。1つは、ウイルスのつくる蛋白に働きかけ、その蛋白を阻害することによってウイルスを消滅させる、あるいは減少させる蛋白阻害薬(表1の③、④)と、もう1つは、ウイルスのもっている遺伝子(C型肝炎の場合はRNA)に直接入り込み、その遺伝子をずたずたに切り裂くチェイン・ターミネーター(鎖を断ち切るもの)と呼ばれる種類のもの(表1の①、②)です。
前者には多くの種類があり、これらのいくつかを組み合わせることによってウイルス駆除を目的とし、後者は、その強力な抗ウイルス作用のゆえに、1種類程度の蛋白阻害薬と組み合わせることによって極めて劇的な効果をもたらします。
この2つのタイプの治療によって現在まで約20万人の患者さんの治療が行われ、外来からC型肝炎ウイルスを有した患者さんがほぼ消滅したといっても過言ではありません。これらの経口薬のうち、現在まで、もっとも使われたものはハーボニー(ソホスブビル+レジパスビル)とソバルディ(ソホスブビル)であり、慢性肝炎の治療としては、ほぼ完成されたものと考えられます。8週間投与でも治癒する場合がありますが、多くは12週間、毎日1錠飲むことによって、ウイルスが血中1ccあたり100万あったものが4週間では10個以下に激減するという効果がもたらされています。
私の外来の場合、現在までの550名の治療例で、ウイルス駆除ができなかった症例は4例ありますが、その4例もさらなる治療によってウイルスが完全に消失しました。現在、慢性肝炎に対するC型肝炎治療法としてのみならず、非代償性肝硬変にも適用拡大が行われ、これらの患者さんに対する治療も始まろうとしています。
現在まで治療した患者さんへの注意事項としては、むしろ食欲が増進し、体重が2~3kg増えて、肝臓に脂肪がたまってくる脂肪肝の兆候が現れますので、食生活に気をつける必要があると思います。なお、現在使用されている主な治療薬の名前を表1に記載しています。
・参考文献:小俣政男.夢のくすりを求めて「C型肝炎治療の最前線:ウイルス駆除率96%,1錠6万円の新薬が日本上陸」雑誌 Newton.2015年35(8):8月号 p.34-39