外傷

びまん性軸索損傷

びまんせいじくさくそんしょう
Diffuse axonal injury

初診に適した診療科目:脳神経外科 外科

分類:外傷 > 頭部外傷

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どんな病気か

 頭部外傷のうち、受傷直後から6時間を超えた意識消失がある場合を、臨床的にびまん性軸索損傷と定義しています。

 通常は、明らかな脳組織の挫滅(脳挫傷)や血腫がない場合に付けられる病名で、意識のない原因を、脳の細胞レベルの損傷が広範囲に生じたためと考えたものです。

原因は何か

 頭部に回転性の外力が加わることにより、脳の神経細胞の線維(軸索)が広範囲に断裂し、機能を失うと考えられています。ヘルメットを着用したオートバイ事故のように、頭部に直接の打撲がない場合でも、強く脳が揺れることにより起こります。

症状の現れ方

 受傷直後から意識がありません。重症例では脳の深部にある生命維持中枢(脳幹)が直接侵され、呼吸が損なわれたり急死することがあります。

検査と診断

 頭部MRIで、神経細胞の軸索の断裂に伴う微小な出血やむくみ(浮腫)が映し出されます。頭部CTの精度では異常が認められないことも多く、意識がないなどの重い症状があるのに頭部CTで大きな異常がみられず、頭部外傷以外には原因が考えられない時はびまん性軸索損傷が疑われ、MRIで典型的な所見が認められれば診断が確定します。

治療の方法

 効果的な治療法はありません。脳挫傷や血腫を合併していれば、それに対する治療を行います。合併症を防いで全身状態を保ち、二次的な脳の障害を予防して(脳への十分な血液や酸素の供給など)、脳の回復を期待します。

 予後は一般的に昏睡の持続時間に比例します。受傷から24時間以内に意識の回復がなくて脳幹の障害が認められる場合は死亡率が約6割とされ、生命が助かっても意識障害などの後遺症が残ります。

 びまん性軸索損傷は高次脳機能障害を来しやすく、知能や記憶などの後遺症を残しやすいとされています。詳しくはコラム「頭部外傷と高次脳機能障害」を参照してください。

(慶應義塾大学医学部救急医学専任講師 並木 淳)

頭部外傷と高次脳機能障害

 高次脳機能障害とは、医学的には大脳皮質の連合野と呼ばれる、人間で高度に発達した脳の領域の損傷により出現する症状です。脳の個々の大脳皮質の領域は、連合線維という連絡によって互いに密接に結合しています。

 たとえば、指をけがして血が出た時の「指の痛みとその部位からの赤色の液体流出」という情報は、大脳皮質の感覚野と視覚野に送られたあと連合野に伝えられ、これまでに蓄積された情報と比較されて、「指のけが」と判断され、言葉の反応や行動などが起こることになります。

 ただし、大脳皮質連合野の局在や機能の詳細についてはまだわかっていないことが多く、運動麻痺や視覚障害などの「一次性大脳皮質」の損傷による後遺症に比べると、CTなどの画像検査から診断することは難しい場合が多いといえます。

 表5に示すような、高次脳機能障害の具体的な症状が認められる場合や、脳の広範な損傷がみられるびまん性軸索損傷と診断されている場合、脳挫傷が広範囲あるいは複数の部位に認められる場合に、高次脳機能障害が問題になります。神経細胞の脱落のため、頭部CTやMRIで脳萎縮や脳室拡大の所見がみられることもあります。

 高次脳機能障害は、このように複雑な連合野の障害のため、ある部分の脳損傷により症状が出現していても、ほかの損傷を受けていない部位の神経細胞とシナプスが形成されるなどのメカニズムにより、回復が期待できる場合があります。ただし、回復の個人差は大きく、回復の程度や時期の予想は難しいといえます。一般的には、高齢者よりも若年者のほうが症状の改善の見込みがありますが、受傷数カ月から半年をへると、そこからの改善の可能性は低くなります。

 高次脳機能障害については、脳神経外科あるいはリハビリテーション科で、画像検査のほか神経心理学的検査(認知機能検査など)、患者さんの行動観察や家族申告の聴取によって、診断と指導が行われます。

 社会的には、「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活および社会生活への適応に困難を有する」場合に、高次脳機能障害に対する支援が必要と考えられています。

(慶應義塾大学医学部救急医学専任講師 並木 淳)

表5 高次脳機能障害でみられる症状表5 高次脳機能障害でみられる症状