外傷
急性硬膜下血腫
きゅうせいこうまくかけっしゅ
Acute subdural hematoma
初診に適した診療科目:脳神経外科 外科
分類:外傷 > 頭部外傷
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どんな外傷か
頭蓋骨の内側で脳を包んでいる硬膜と、脳の間に出血がたまって血腫になったものです(コラム頭部の解剖図)。
原因は何か
脳組織の挫滅(脳挫傷)があり、そこからの出血が脳の表面(脳表)と硬膜の間にたまり、硬膜下血腫になります。
まれに硬膜と脳表とを結ぶ静脈(橋静脈)が切れて出血することがあります。この場合は、たとえ頭部に打撲がなくても、脳が強く揺れるような外力(とくに回転性の外力)により出血します。
症状の現れ方
血腫による圧迫と脳挫傷のため、頭蓋骨の内側の圧が高まり(頭蓋内圧亢進)、激しい頭痛、嘔吐、意識障害などが認められます。さらに、血腫の圧迫が脳ヘルニアの状態にまで進行すると、深部にある生命維持中枢(脳幹)が侵され(呼吸障害など)、最終的には死に至ります。
脳挫傷の局所の症状として、半身の麻痺(片麻痺)、半身の感覚障害、言語障害、けいれん発作などが現れることもあります。受傷直後に血腫ができて症状が現れることがほとんどですが、数時間たってから意識がなくなることもあり、注意が必要です。最近の統計では、重症の急性硬膜下血腫の13%で意識障害が遅れて現れています。意識障害出現までの時間はその81%が3時間以内でした。
橋静脈が出血源の場合は乳幼児に多いとされ、典型的な例では、乳児が後ろに転んで畳に後頭部を打撲し、数分間泣いたのち嘔吐やけいれん発作を起こし、意識がなくなるということがあります。
検査と診断
血腫は頭部CTで白く映ります(高吸収域)。血腫は脳の表面に広がるため、三日月型になります。
治療の方法
血腫の大きさと症状の程度によって、緊急に開頭血腫除去術が行われます。日本のガイドラインでは、血腫の厚さが1㎝以上を手術の目安にしています。
血腫が少量の場合は手術の効果が低いため、重症でも薬物療法が選択されることが多く、頭蓋内圧亢進に対する脳圧降下薬(グリセオールやマンニトール)の点滴注射が行われます。頭蓋内圧亢進に対する特殊な治療法としてバルビツレート療法や低体温療法がありますが、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。
脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われた場合(たとえば呼吸停止)は、手術での危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。重症例では、局所麻酔で頭蓋骨に小さな孔をあけて血腫を抜く穿頭血腫ドレナージ術が行われることもあります。
予後は、一般的に入院時の意識障害の程度に比例し、昏睡状態の重症急性硬膜下血腫の死亡率は70%、社会復帰は15%と報告されています。
頭部の解剖図
頭部の基本的な構造は、脳が頭蓋骨という入れ物に入っている状態といえます(図2)。頭蓋骨よりも外側を頭蓋外といい、頭部軟部組織がおおっています。頭蓋骨よりも内側を頭蓋内といい、脳が髄膜に包まれた状態で存在します。脳に対して影響を及ぼす頭蓋内の損傷の有無が、頭部外傷では問題になります。
髄膜は外側から硬膜、くも膜、軟膜の3層構造になっています。硬膜は頭蓋骨の内側にぴったりと張りついている、厚紙のようなしっかりした膜です。くも膜は薄く弱い膜で、ピンセットでつまむと破れてしまいます。軟膜は脳の表面そのもので、はがすことはできません。くも膜よりも内側を、無色透明の脳脊髄液が満たしています。