遺伝的要因による疾患

糖尿病

とうにょうびょう
Diabetes mellitus

初診に適した診療科目:内科

分類:遺伝的要因による疾患 > 多因子遺伝性疾患

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糖尿病の種類

 糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があり、以前は1型をインスリン依存性糖尿病あるいは小児糖尿病、2型をインスリン非依存性糖尿病あるいは成人型糖尿病と呼んでいました。そのほかにミトコンドリア遺伝子異常で起こる糖尿病や、まれですが単一遺伝子病で常染色体優性遺伝するMODY(Maturity Onset Diabetes of the Young)があります。1型と2型はいずれも複数の遺伝子と複数の環境要因がその発症に関与する多因子遺伝性疾患です。

 日本を始め世界中で急増しているのは全体の95%を占める2型糖尿病です。医療機関を受診している糖尿病患者は2005年の推計で約247万人ですが、2002年の推計で検査値から糖尿病を強く疑われる人は740万人、糖尿病の可能性を否定できない人は880万人にのぼり、合計すると1600万人を超します。現在ではさらに増え、2000万人に及ぶともいわれています。

糖尿病と遺伝

 1型と2型はその原因がまったく異なりますが、双方とも家族で同じ病気にかかる人が多いことから、古くから遺伝が関与していることが明らかでした。1型はHLA遺伝子領域が強く発症に関係していることがわかっており、これを含めて15カ所以上の領域に、この病気のかかりやすさを決めている遺伝子があると考えられています。

 一方、2型に関与している遺伝子が明らかになってきたのは、ごく最近です。2007年にヒトゲノム全体の遺伝子多型を使った網羅的な解析ができるようになり、白人において10個前後の遺伝子が2型糖尿病に関与していることが明らかになりました。そのなかでも、PPARG、KCNJ11、TCF2L7遺伝子は複数の研究で一致し、報告されています。また、2008年には同じ手法で日本人を含む東アジアの人種において、KCNQ2遺伝子が関与していることが報告されました。

 しかし、これらの研究成果を実際の発症予防に役立てるには、まだ多くの研究が必要です。現時点で見つかった個々の遺伝子の、糖尿病発症における影響力が小さすぎるため、実際の発症予測に使えないからです。ただし、今後さらに研究が進み、生活習慣や他の検査データを組み合わせることができれば、予防に役立つと期待されています。

2型糖尿病と日本人の体質

 日本人において糖尿病が激増していることは先に述べたとおりで、この50年間に患者数は実に70倍以上となっています。糖尿病の4大原因は加齢、遺伝、肥満、運動不足といわれています。50年間で日本人の遺伝子が変化することはありえないため、糖尿病患者の激増原因は、肥満および運動不足を来す悪い生活習慣が増えたこと、高齢化が進行したことだと思われます。

 一方、欧米の白人に比べ、日本人は明らかに肥満の程度が軽いのですが、その割に糖尿病の頻度が高いことが知られています。2型はインスリン分泌低下とインスリン感受性低下の2つを原因とします。欧米では肥満による感受性低下が原因として強い影響があることが多いのですが、日本人では体質的に膵臓からのインスリン分泌能力が低い傾向にあり、それほど太っていなくても発症しやすいのではないかと考えられています。

(千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学教授 羽田 明)