遺伝的要因による疾患

メンデル遺伝の分離にあてはまらない場合

めんでるいでんのぶんりにあてはまらないばあい
Cases not applicable to Segregation law

分類:遺伝的要因による疾患 > 遺伝の様式

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 遺伝性疾患は、メンデル遺伝の原則に従って分離するのが通常ですが、このルールにあてはまらない場合もあります。その原因としては次のようなことが考えられます。

①浸透度の低下

 常染色体優性遺伝病の場合、各世代に発病者が認められ、世代の飛び越しがないことが原則です。しかし、実際に家系調査をすると、ある程度の割合で飛び越し現象がみられます。遺伝子型Aaの人を分母にし、実際に発病した人を分子とした値で浸透度を表すことができます。DNA(デオキシリボ核酸)にメチル基(CH3)が付くと遺伝子の発現が抑えられます。遺伝子型Aaであれば発病することが予測されますが、DNAのメチル化による変異遺伝子の不活化など、何らかの原因で発病しない場合があります。このような現象を「不完全浸透」と呼んでいます。

②表現度の差

 常染色体優性遺伝病では、同じ原因遺伝子によって起こった病気であっても、重症度や症状の内容に大きな差があることが知られていて、たとえ同じ家系内でも表現度に差がみられます。重症例に比べ、非常に症状が軽ければ病気として気づかなかったり、同じ病気として認識されないこともあります。

③生殖腺モザイク

 常染色体優性遺伝病では、先の世代から後の世代に原因遺伝子が伝わることが原則です。しかし、親世代以前にまったく病気にかかった人が見あたらないにもかかわらず、ある世代の兄弟姉妹で複数の人が病気になる場合があります。

 同じ突然変異が精子や卵をつくる過程の減数分裂の時に偶然一致して起こることは考えにくいことから、親の生殖腺発生段階で(親が祖母の胎内にいる時)一部に変異が生じたためと考えられます。ただ、この世代以降はメンデル遺伝の法則どおりに病気の形質が伝わることになります。

④発病年齢の差

 遺伝性の病気のすべてが生後すぐに発病するのではなく、成人してから発病するものがかなり多くあります。同じ病気であっても、青年期で発病する人から老年期になって発病する人まで個人差がみられます。

 したがって、遺伝子型からある遺伝病にかかることが予想される場合でも、発症年齢が遅く、ほかの疾患に早くかかり、遺伝病の発症を待つまでもなく一生を終える場合もありえます。

 一方、世代をへて新しい世代ほど重症度が高くなったり、世代が新しくなるほどだんだん若い年代で発病するようになる現象が神経変性疾患などで知られています。これを「表現促進現象」と呼び、その仕組みも明らかにされてきました。

⑤遺伝的異質性

 これまで同一の遺伝病と考えられていた疾患が、原因遺伝子を調べると実は異なる遺伝子が原因で発症していることがわかってきました。遺伝学的にも、常染色体優性遺伝形式に一致する疾患や、常染色体劣性遺伝やX連鎖劣性遺伝が混在している疾患群があります。

 病気を遺伝子レベルで分類し、真の原因を突きとめることは根本的な治療法開発の第一歩であり、遺伝カウンセリングにおいて的確な情報を提供するための重要な根拠でもあります。

(近畿大学理工学部生命科学科教授 田村和朗)