感染症

〈新1類〉痘瘡(天然痘)

〈新1類〉とうそう(てんねんとう)
Smallpox

分類:感染症 > 感染症法改正(2003年)で追加された感染症

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どんな感染症か

 天然痘は通称名で、医学用語では痘瘡といいます。紀元前1万年以上も前からアジア、アフリカの農村で出現し、人類史上最も致命率の高い感染症として恐れられてきました。20世紀だけでも2〜3億人が死亡したとされています。

 痘瘡はヒトからヒトへしか伝播しないことが疫学的に証明されていること、またワクチンが極めてよく効くことの2つの条件が、1967年〜77年に行われたWHO(世界保健機関)の痘瘡根絶計画を成功に導きました。感染者(患者)と他のワクチン未接種者との接触を断つという、極めて素朴な理論の実践の成果であったといえます。人類が永年にわたる感染症との闘いに勝利したのは、唯一この疾患のみであり、20世紀の医学最大の快挙といってもよいでしょう。

WHOの天然痘根絶計画

 根絶計画が開始された1967年ころ、痘瘡は世界の33カ国で流行状態にありました。10年後の1977年10月26日、アフリカ・ソマリアの男性例を最後に、この疾患の歴史が幕を閉じました。2年間のサーベイランス(患者の有無の確認)がなされ、1980年に「根絶宣言」が出されました。

 その後、痘瘡ウイルスは、自由主義国では米国(アトランタ)、共産主義国では旧ソ連(モスクワ)に保有ウイルスが移管され、一定期間保管後廃棄することになり、現在まで10回の会議が開かれていますが、まだ廃棄はされていません。

 2001年9月の米国における航空機乗っ取りによる同時多発テロ、続く10月の炭疽菌テロの発生以来、「次のテロでは痘瘡ウイルスが使われるのでは?」と、WHOをはじめ世界は警戒体制に入り、新たなワクチンの開発・再生産に走りだしています。米国・ロシアに保管されていたウイルスが外部に出たのか、あるいは移管されていない痘瘡ウイルスがあり、それがテロへの恐怖をかきたてているのかは、証拠がない(公表されていない)のでよくわかっていません。

痘瘡ウイルスと病気

 痘瘡ウイルス(variola)はポックスウイルス科のオルソポックス属に属し、ウイルスのなかで最も大きいものです。DNAを核酸としてもちます。このウイルスはヒトからヒトへしか感染せず、発熱後2〜3日で解熱し、発疹が出始めてから感染性をもちます。水痘、膿疱内容、咳、唾液、気道内分泌物などの飛沫、接触、あるいは近距離でのエアロゾル(微粒子)による気道感染により伝播します。

 ウイルスは血中に入って全身に感染し、皮膚に水・膿疱を形成して痂皮(かさぶた)へ移行し、発症後約21日で治癒しますが、約30%が死亡します。潜伏期間は7〜16日で、その後、前駆期、発疹期と規則正しく移行します。水痘との鑑別が重要です。

 実験室診断としては、電子顕微鏡によるウイルス粒子検出、ウイルス抗原・ウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離などがあります。

予防と治療の方法

 ワクチンは極めて有効です。現在日本が保有する細胞培養ワクチン(LC16m8)は世界で最も優れており、従来あった副作用がほとんどみられません。なお、本症には特異的治療法はありません。

(富山県衛生研究所所長 倉田 毅)