代謝異常で起こる病気

薬物療法

やくぶつりょうほう
Pharmacotherapy

分類:代謝異常で起こる病気 > 糖代謝の異常(糖尿病)

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 食事・運動療法は、効果が出るまでに時間がかかることがあります。十分な食事・運動療法を2~3カ月行っても、良好な血糖コントロールが得られない場合は、薬物療法で血糖値の改善を図ります。高血糖が持続すると糖尿病の合併症が起こってきます。血糖値が下がらないのに薬物療法を先延ばしにするのはよくありません。

 糖尿病の治療薬(血糖降下薬)には、のみ薬(経口薬)と注射薬があります。注射薬には、インスリンと最近使われるようになったGLP受容体作動薬があります。通常、2型糖尿病ではのみ薬から開始します。血糖降下薬を使用中は、その効果と副作用のチェックのため、定期的な通院と検査が必要です。

 薬剤で糖尿病自体が治るわけではありません。薬の有効性を維持し、肥満を防ぐために、食事・運動療法の継続が大切です。

 なお、糖尿病に効果があるとする民間薬、食品がいろいろ販売されていますが、実際に効果があるものは少なく、怪しいものには手を出さないのが賢明です。

のみ薬

 のみ薬は現在7種類あります(表15)。そのほかに、さまざまな配合薬(2種類の薬の成分が含まれているのみ薬)が販売されています。以前はスルホニル尿素薬が最も広く使われていましたが、最近ではDPP-4阻害薬が最も使われています。ビグアナイド薬も使用されることが多くなってきました。最も新しいSGLT2阻害薬の処方は徐々に増えています。

●ビグアナイド薬

 インスリンのはたらきを改善することで血糖値を低下させる薬です。

 インスリンは、肝臓、筋肉、脂肪組織でブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に変換させることや、肝臓でブドウ糖の合成を抑えることで血糖値を低下させる作用をもちますが、ビグアナイド薬は末梢組織、主に肝臓におけるインスリンのはたらきを改善します。したがって、インスリンはけっこう出ているのにはたらきが悪くなっている人や、とくに太っている人に効果が高い薬です。

 ビグアナイド薬は単独では低血糖を起こすことはとても少なく、体重増加も起きにくいことがわかっています。米国やヨーロッパでは2型糖尿病の第一選択薬として広く使われています。

 副作用としては、乳酸アシドーシスという血液が酸性になるという異常を起こす可能性がありますが、現在発売されているビグアナイド薬ではまれです。そのほか、軽い胃腸障害が起こることがあります。

●チアゾリジン薬

 ビグアナイド薬とは異なる仕組みで、インスリンのはたらきを改善して血糖値を低下させます。

 太っている人に効果が高く、単独では低血糖は起こしにくいのですが、浮腫(むくみ)や水分貯留を起こす傾向があり、心臓が悪い人は服用を控えたほうがよいでしょう。体重が増加しやすいので、食事療法を確実に行うことが大切です。

●スルホニル尿素薬

 直接、膵臓にはたらきかけてインスリンの分泌を促進します。その効果は長く持続し、1日に1回か2回の服用で血糖値が全体に低下します。2型糖尿病ではインスリン分泌が少し低下することが多いので、理にかなった薬剤なのですが、人によってはごく少量でも血糖値が下がりすぎ、後述する低血糖状態になることがあります。

 スルホニル尿素薬のその他の好ましくない点として、食事療法が不十分だと体重が増加しやすいことがあります。また、途中から薬の効きめが悪くなりやすいことも欠点です。このことはスルホニル尿素薬の二次無効と呼ばれますが、インスリン注射への変更の理由として多いものです。

 スルホニル尿素薬の服用中でも、食事・運動療法を守ることが大切です。

●速効型インスリン分泌促進薬

 スルホニル尿素薬と同じく膵臓からのインスリンの分泌を促進しますが、効果がすぐに現れ、数時間で消失します。α-グルコシダーゼ阻害薬(後述)と同様に食後高血糖を改善する目的で、食直前に服用します。

 腹部症状は起こりにくいのですが、服用時間がずれると単独でも低血糖を起こすことがあります。

●DPP-4阻害薬

 インスリンの分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチン(GLP-1およびGIP)を増やし、血糖コントロールを改善させます。腸管から分泌されたインクレチンはDPP-4という分解酵素によりすみやかに分解されるので、DPP-4阻害薬はGLP-1とGIPを増やすのです。

 インスリンの分泌は増えますが、スルホニル尿素薬とは異なり、血糖値が低い時は効果が弱くなるために、単独では低血糖の可能性はほとんどなく、体重も増加しにくいことがわかっています。血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌も減弱させますが、同様に血糖値が低い時は効果が弱くなるために、単独では低血糖を増加させません。低血糖以外の副作用も少なく、ほかの糖尿病ののみ薬との併用もしやすいために広く使われるようになりました。また、糖尿病ののみ薬としては初めて、週1回服用の製剤も発売されています。

●α-グルコシダーゼ阻害薬

 小腸に存在する二糖類分解酵素(α-グルコシダーゼ)のはたらきを抑えることで、でんぷん、砂糖などの糖質の消化、吸収をゆっくりとさせ、結果として食後の血糖値上昇を改善します。

 初期の糖尿病の場合には、食後のインスリンの出具合が遅いために空腹時の血糖値があまり高くないのに食後に高血糖になることが多く、そうした人に適した薬です。

 また、ほかの血糖降下薬で食後の血糖値が十分に下がらない場合に併用されることも多くあります。最近、食後の血糖値の上昇が動脈硬化を起こしやすくすることがわかり、この薬剤の意義が高まっています。服用は、食後では効果はなく、食事直前にする必要があります。

 副作用としては、おなかが張ったり、おならが増えたりすることが多いのですが、服用しているうちにだんだん減ってきます。単独の服用では低血糖を起こすことは少ないのですが、スルホニル尿素薬やインスリンとの併用で低血糖を起こすことがあり、その際は、ブドウ糖を服用します。砂糖は二糖類なので、この薬のはたらきで血糖値が上がりにくいからです。非常にまれですが、副作用として重い肝機能障害が報告されているので、定期的な肝機能のチェックが必要です。

●SGLT2阻害薬

 尿糖を増やすことで血糖値を低下させるというユニークな薬です。ブドウ糖は腎臓の近位尿細管にある輸送たんぱく(大部分はSGLT2)により再吸収され、血糖値が170~180mg/dlを超えなければ尿糖が出ないしくみになっています。SGLT2阻害薬は尿糖排泄を増加させることで血糖値を低下させます。また、尿中にブドウ糖が排泄されることでエネルギーが失われ脂肪の分解が促進されるので、体重が減少すると考えられています。

 インスリンの分泌は増加せず、SGLT1は阻害しないので、単独では低血糖の可能性は少ないと考えられます。一方で、尿糖の増加は膀胱炎などの尿路感染症や性器感染症(とくに女性)をきたしやすいので、注意が必要です。尿糖の増加は利尿作用もあるために脱水を起こしやすいので、水やお茶による適度な水分の補給が必要です。

インスリン注射

●インスリンとは

 膵臓から血糖値を下げる何らかの因子が出ていることは、19世紀にはわかっていましたが、ようやく1921年にカナダで血糖値低下作用のある物質が抽出され、インスリンと命名されました。

 インスリンはホルモンの一種です。膵臓のなかの一部の細胞(膵β細胞あるいは膵B細胞と呼ばれる)で合成され、血糖値に応じて血液中に分泌され、食事などでとり込まれた栄養素を肝臓および筋肉などに蓄えるはたらきがあり、結果として血糖値が低下します。

 インスリンは、51個のアミノ酸でできたペプチド(たんぱくの一種)で、経口摂取では腸で分解されやすく、血液中に吸収されにくいため、現在のところ注射でしか投与できません。

 インスリン注入器は、カートリッジペン型、使い捨てペン型、使い捨てタイマー型が開発され、以前と比べてインスリン自己注射は実行しやすくなっています。針も細く短くなっていて、痛みはさほどではありません。

 従来のインスリンは、ブタ、ウシなどの動物の膵臓から抽出していましたが、その後遺伝子工学でつくられるヒトインスリンになりました。最近になり、アミノ酸をヒトインスリンから少し変更したインスリン(インスリンアナログ)も発売され、使用頻度が増えています。

●インスリン注射を行う場合

 インスリンの欠点として、注射によるQOLの低下以外にも、低血糖と体重増加があり、これらはスルホニル尿素薬よりも起こしやすくなります。したがって、生活習慣の乱れが大きく影響する2型糖尿病では、インスリン注射はすぐには行いません。

 しかし、糖尿病が見つかった時に血糖値がとても高い場合、あるいは非常にやせている場合は、最初からインスリンを使う場合もあります。また、インスリンを使ったほうがよい特別な場合もあります。

 肺炎胆嚢炎、皮膚の感染、足の潰瘍・壊疽、大きな傷を受けた場合、手術を行う場合などは、体に大きなストレスが加わって血糖値が上昇しやすいので、インスリンを使うことが多くなります。妊娠した場合でも、経口薬が胎児に悪い影響を与えることがあるため、インスリンによる治療が原則です。

 発熱、脱水などで血糖値が急に上昇したり、ケトン体という酸性の物質が血液中にたまった場合には、インスリンを使います。最近は、コーラやジュースなどの清涼飲料水やスポーツドリンクの大量摂取で、血糖値が急上昇するケースがよくみられるようになってきました。これらに含まれているブドウ糖、砂糖などが急速に血液中に入るため、この場合もインスリンを使います。

●2型糖尿病でインスリン注射を行う場合

 2型糖尿病でも、糖尿病になってからの期間が長くなると、インスリンを使わないと血糖値がうまく下がらないことが多くなってきます。糖尿病自体が進行し、インスリンがだんだん出なくなることが原因として考えられています。

 食事・運動療法が不十分であること、およびスルホニル尿素薬の使いすぎは膵臓に負担をかけ、インスリンの出具合をさらに低下させます。のみ薬がうまく効かなくなって血糖値が十分に下がらない場合は、まず食事・運動療法がおろそかになっていないかを確認したうえで、主治医とよく話し合ってインスリン注射への変更を検討します。

 いたずらに先延ばしにしてはいけません。血糖値が高いこと自体も、インスリンの出具合をさらに悪くするのです(「ブドウ糖毒性」あるいは「糖毒性」と呼ばれます)。外からインスリンを投与すると、膵臓が休まってインスリンがよく出るようになって、インスリン治療から経口薬治療にもどせる場合もあります。

 最もよくないのは、血糖値が高いまま長期間放置し、合併症を進行させてしまうことです。

●インスリン注射のしかた

 インスリンは、毎日食事に合わせて決まった時間に腹部、上腕、大腿などに皮下注射で投与します。最初の導入時以外は、家庭で自分自身で注射する自己注射が原則です。インスリン注入器は、前述のように以前と比べて種類も増え、自己注射がしやすくなっていて、入院せずに外来で開始することも多くなってきました。

 インスリン治療を開始するにあたっては、実際の注射手技をマスターするとともに、いくつか心得ておかなければならないことがあります。使用しているインスリン製剤の名前、性質、注射する量(単位で表される)、注射時間、注射の場所と方法、注射の際の清潔法、注射液および注入器の保管方法などです。

 インスリン製剤には、作用時間の違いによって多くの製品があり、超速効型、速効型、中間型、配合溶解、混合型、持効型溶解に分類されます。現在日本で使用されているインスリン製剤を表16-1にまとめました。

 注射の回数、組み合わせは人によってさまざまですが、大まかには超速効型と速効型は食後の血糖値を下げるインスリンとして補充され、中間型や持効型溶解は半日~1日のインスリンを補充し、全体に血糖値を下げます。配合溶解、混合型は、持効型溶解(あるいは中間型)と超速効型(あるいは速効型)が混ざったもので、2型糖尿病の人に1日に通常2回注射することで、食前食後ともに血糖値を改善する目的でよく使われます。

 なお、混合型インスリン製剤にはヒトインスリンを使ったものと、インスリンアナログを使ったものの2種類がありますが、食直前に注射するインスリンアナログ混合型を使うことが多くなっています。さらに、最近発売された配合溶解インスリン製剤は持効型溶解と超速効型が混合されていますが、従来の懸濁液である混合型インスリン製剤と異なり、透明な溶解インスリン製剤です。そのため、注射前の混和操作が不要です。

インスリンインスリン以外の注射(GLP-1受容体作動薬)

●GLP-1受容体作動薬とは

 糖尿病の注射薬として、インスリン以外にGLP-1受容体作動薬があります。すでにDPP-4阻害薬のところで述べた、インクレチンという消化管ホルモンの1つであるGLP-1のはたらきを強くする薬です。DPP-4阻害薬と合わせて、インクレチン関連薬と呼ばれることもあります。

 主にインスリンを分泌する膵臓のβ細胞のGLP-1受容体に結合して、インスリンの分泌を促進します。さらに、グルカゴンの分泌も低下させます。これらのはたらきにより血糖値は低下しますが、血糖値が低い時は効果が弱くなるために、単独では低血糖はほとんどありません。

 GLP-1受容体作動薬は、そのほか、胃の内容物の十二指腸・小腸への排出をゆっくりさせるはたらきと食欲を抑えるはたらきもあり、それらによる血糖値の低下作用とともに、体重の低下作用もあります。

●GLP-1受容体作動薬の使い方

 GLP-1受容体作動薬はインスリンの分泌が残っている2型糖尿病が適応です。インスリン依存状態の1型糖尿病ではインスリンによる治療を行います。製剤には、注射の回数が1日1回(朝または夕、あるいは朝食前)、1日2回(朝食前と夕食前)、週1回の3種類があります。副作用として、下痢、便秘、嘔吐などの胃腸症状が使用開始後に認められることが多く、1日1回あるいは2回の製剤の場合は胃腸障害を避けるために徐々に増量します。現在日本で使用されているGLP-1受容体作動薬を表16-2にまとめました。

日常生活における血糖測定

●血糖値を自宅で測る

 良好な血糖コントロールを目指すために、小さな器械を使って血糖値を自宅で測ることが可能です(血糖自己測定)。少量の血液を指などから採取して、血糖値を短時間で正確に測定できます。

 病院で血糖値を測るのは月に数回しかできませんが、日常生活でしばしば血糖値を測ることによって、治療による血糖値の改善が実際にうまくいっているかどうかがチェックできます。これは食事の内容や運動量が血糖値の変動に及ぼす影響も確認でき、低血糖や予期しない血糖値の上昇を知るうえでも有用です。

 血糖値を下げる注射薬(インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬)を使用中の人や、妊娠中の一部の人には保険が適用され、病院から器械、血糖測定チップなどが提供されます。保険適用ではない人でも薬局で購入し、血糖自己測定をする人が増えてきています。おおまかに血糖値が上がりすぎていないかをみるためには尿糖試験紙を購入して、尿糖を自宅でチェックするのもよいでしょう。

 インスリンの量や回数は、血糖やHbA1Cをみながら変更することもあるので、定期的な通院が必要です。その際、血糖自己測定での値は治療方針決定に役立つ情報となります。自宅での血糖値に応じて、インスリン量を少し変更することが指示されることもあります。

 インスリン治療中は、スルホニル尿素薬使用中よりも低血糖が起こる可能性があります。食事、運動、補食と連動させてインスリン治療を行い、後述する低血糖に対する準備を怠らないことが重要です。インスリン治療は体重も増加しやすいことから、食事・運動療法を守ることが重要です。

●持続血糖測定(CGM)

 2010年から、持続血糖測定(あるいは持続血糖モニター、CGM)が1型糖尿病患者と血糖値のコントロールが難しい2型糖尿病患者に対して保険適用となりました。持続血糖測定のセンサーを装着し、連続的に皮下の間質液のグルコース濃度を測定することで、1~2週間にわたる血糖値の変動を推定することができます。血糖自己測定では困難な、夜間の低血糖や食後の血糖値スパイク(食後に血糖値が急上昇すること)を確認することが可能です。センサーを取り外した後に血糖値の変動が解析され、今後の血糖コントロールの改善に役立てられます。2017年には、リアルタイムで血糖値を表示できる機器も日本で導入され、患者自身が血糖値に応じてインスリン量や食事量などを調節して、血糖コントロールを改善し低血糖を減少させることが可能となってきました。

低血糖について

 低血糖とは、血液中のブドウ糖が極端に減ってしまった状態です(通常70mg/dl以下)。

 血液中のブドウ糖は、体のなかのいろいろな組織でエネルギーとして利用されますが、とくに脳はブドウ糖の欠乏に敏感で、機能低下を起こします。大切な脳を守るため、体のなかには低血糖を防ぐ仕組みが備わっており、血糖値が正常範囲より低下すると交感神経の活動が高まります。

 血糖降下薬やインスリンを使用していない場合は、交感神経などのはたらきで肝臓などに貯蔵されていたブドウ糖が血中に放出されて血糖値は正常にもどります。しかし、血糖降下薬やインスリンを使用している場合は、血糖値が下がりすぎて脳の活動が低下し、頭痛、集中力の低下、意識障害などが起こってくることがあります。

 低血糖が起こる原因としては、薬の量が多すぎた場合もありますが、適切な量の薬を使用している場合でも食事が少なかったり、運動量が多かったりすると低血糖に陥る可能性があります。

 低血糖を予防するためには、薬物治療中の人は食事量を守り、運動時には適切な補食をとることが必要です。さらに、ブドウ糖、砂糖、ジュース、糖質の入ったゼリーなどを携帯し、交感神経症状である冷や汗、動悸、手の震えなどの症状や強い空腹感、脱力感が起こってきた時はすぐに摂取するようにします。

 がまんすることは禁物です。とくに、自動車の運転時は注意する必要があります。車内に必ずブドウ糖、ジュースなどを常備し、おかしい時には車を安全な位置に停車させて摂取するようにしてください。

(国際医療福祉大学病院糖尿病内分泌代謝科 教授・部長 粟田卓也)

表15 主な経口血糖降下薬(商品名)表15 主な経口血糖降下薬(商品名)

表16-1 インスリン製剤一覧(商品名)表16-1 インスリン製剤一覧(商品名)

表16-2 主なGLP-1受容体作動薬一覧(商品名)表16-2 主なGLP-1受容体作動薬一覧(商品名)