生活習慣病の基礎知識
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身体活動・運動
しんたいかつどう・うんどう
Exercise, Physical activity
分類:生活習慣病の基礎知識 > 予防の基本
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ここでは厚生労働省作成の「健康づくりのための身体活動基準2013」に基づいて解説します。
日常の身体活動量を増やすことで、メタボリックシンドロームを含めた循環器疾患・糖尿病・がんといった生活習慣病の発症およびこれらを原因として死亡に至るリスクや、加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドロームおよび認知症)などをきたすリスク(以下「生活習慣病等及び生活機能低下のリスク」という)を下げることができます。加えて運動習慣をもつことで、これらの疾病などに対する予防効果をさらに高めることが期待できます。とくに、高齢者においては、積極的に体を動かすことで生活機能低下のリスクを低減させ、自立した生活をより長く送ることができます。
「身体活動」は、「生活活動」と「運動」に分けられます。このうち、生活活動とは、日常生活における労働、家事、通勤・通学などの身体活動を指します。また、運動とは、スポーツなどの、とくに体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し、継続性のある身体活動を指します。
身体活動の強さと量
身体活動の強さの単位を「メッツ」といいます。これは、安静時の何倍に相当するかを表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。具体的な生活活動、運動のメッツを表12と表13に示します。
健康づくりのための身体活動量
(表14)
(1)18~64歳の基準
①身体活動量の基準
強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週行います。具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行います。
②運動量の基準
強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行います。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行います。
③体力(うち全身持久力)の基準
「生活習慣病等及び生活機能低下のリスク」の低減効果を高めるためには、身体活動量を増やすだけでなく、適切な運動習慣を確立させるなどして体力を向上させるような取り組みが必要です。体力の指標のうち、生活習慣病などの発症リスクの低減に寄与するのは、全身持久力です(表15)。
(2)65歳以上の基準
強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行います。具体的には、横になったままや座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行います。
(3)全ての世代に共通する方向性
・現在の身体活動量を、少しでも増やします。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにします。
・運動習慣をもつようにします。具体的には、30分以上の運動を週2日以上行います。
身体活動に安全に取り組むための留意事項
身体活動(生活活動・運動)は、その取り組み方が適切でなかった場合、さまざまな傷害を発生したり疾病を発症したりする可能性があります。なかでも生活習慣病患者などが身体活動に取り組む場合は、健康な人と比較して整形外科的傷害や心血管事故に遭遇するリスクが高いため、その予防に留意する必要があります。
(1)服装や靴の選択
暑さや寒さは、熱中症に代表される身体活動に伴う事故の要因となるため、温度を調節しやすい服装が適しています。また、動きにくい服装は、転倒しかけたときに回避しにくいため適切ではありません。また、膝痛や腰痛などを予防するためには、緩衝機能に優れ、身体活動に適した靴を履くことが望まれます。
(2)前後の準備・整理運動の実施
十分な準備運動(ウォーミングアップ)は、スポーツなどの運動による傷害(外傷と慢性的な運動器障害を含む)や心血管事故などの発生を予防する効果があります。
また、運動後の整理運動(クールダウン)は、疲労を軽減し、その蓄積を防ぐ効果などがあります。
(3)種類・種目や強度の選択
身体活動(生活活動・運動)の内容は、血圧上昇が小さく、エネルギー消費量が大きく、かつ傷害や事故の危険性が低い有酸素性運動が望まれます。
ただし、生活習慣病(高血圧、糖尿病など)を有する人は、3メッツ程度(散歩程度)で開始します。継続的に実施した結果、身体活動に慣れたとしても、安全性を重視して、3メッツ以上6メッツ未満の強度を維持することに留意します。また、運動器の機能向上などを目的とする場合は、筋や骨により強い抵抗や刺激を与えるようなストレッチングや筋力トレーニングなどを組み合わせるとよいでしょう
強度の決定には、メッツ値だけでなく、対象者本人にとっての「きつさ」の感覚、すなわち自覚的運動強度(Borg指数)も有用です。生活習慣病患者などには、「楽である」または「ややきつい」と感じる程度の強さの身体活動が適切であり、「きつい」と感じるような身体活動は避けましょう。
ロコモティブシンドローム予防のための運動
筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器の障害のために、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態を「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ、和名:運動器症候群)」といいます。病気でなくても、加齢により筋量・筋力が低下し、「加齢性筋肉減少症(サルコペニア)」が生じてきます。これもロコモを促進させる要因となります。
ロコモが進行すると生活活動が制限され、社会参加が困難になります。ひいては要介護状態となります。
ロコモにはいろいろなレベルがあり、それはどれくらい歩けるかによってわかります。ロコモの予防運動は通称「ロコトレ」と呼ばれます。十分に歩ける人と、よく歩けない人では、ロコトレのやり方も違います。
自分に合った安全な方法で、まず「片脚立ち」と「スクワット」を始めましょう(図13)。
メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームとは、食べすぎ、運動不足などの不健康な生活習慣を続けることで、腸のまわりに内臓脂肪が過剰に蓄積し、この内臓脂肪から悪玉生理活性物質(アディポサイトカイン)が多く分泌されたり、善玉の生理活性物質(アディポネクチン)が減少することにより、高血圧、脂質異常、高血糖が生じた状態をいいます。
メタボリックシンドロームは、これまでの健診の考え方と根本的に異なります。これまでは、検査の数値の異常度で評価してきました。つまり、中性脂肪は200㎎/dlより400㎎/dlのほうが重症という値の高低を問題としていました。メタボリックシンドロームでは、正常範囲(基準範囲)を超える項目がいくつ存在しているのかを問題とします。これまでは「軽度」(レベル1)の異常はいくつあっても、軽度の異常ということで重要視されていませんでした。しかし、それぞれが軽度の異常であっても3つ、たとえば腹囲、高血糖、高血圧と3つそろえば1+1+1となり、これが単独のレベル3の異常(重症)に匹敵することがわかってきたのです。
●肥満者の増加
男性の肥満者が増加しています(図9)。
美味しいものを食べ、動かずにテレビを見ながらごろごろしていたい。さらに自由時間も、趣味を楽しむ時間も減ってストレスが増える一方です。これらは複合的に影響して、内臓脂肪がたまって肥満となります。
●内臓脂肪を減らす必要性
メタボリックシンドロームの該当者とは、内臓脂肪型肥満(腹囲が男性 85㎝以上、女性90㎝以上)に加え、高血糖、脂質異常、高血圧の3つのうち2つ以上を合併した状態で、予備群とは内臓脂肪型肥満に加えて3つのうち1つを合併した状態です(図10)。
メタボリックシンドロームの該当者・予備群は複数のリスクが重なることにより、心筋梗塞や脳卒中を発症する可能性が非常に高くなるとされています。メタボリックシンドロームは、運動量の不足や過食をはじめとする好ましくない生活習慣に原因があると考えられています。運動量の増加と食事の改善により、内臓脂肪を減少させてメタボリックシンドロームを改善し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを軽減することが期待できます。
●運動と食事改善の併用が効果的
内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲の1㎝減少は、約1㎏の体重(大部分が脂肪)の減少に相当します。体重を1㎏減少させるためには、運動によるエネルギー消費量の増加と食事改善によるエネルギー摂取量の減少を合わせて約7000kcalが必要です。たとえば1カ月かけて腹囲を1㎝減少させるためには、1日当たり約230kcalが必要となります。その構成は、食事2:運動1の割合が実現しやすいとされています。すなわち食事では約160kcalを減らし、運動・身体活動を約80k分実施することとなります。
巷にはさまざまな食事療法が紹介されていますが、米国の調査では、厳しいやり方では、5~6割程度の人しか1年間ダイエットを続けられませんでした。しかも血圧、血糖には効果がみられなかったという論文が発表されました。理論的な食事内容でも自分に合わなければ意味がなく、厳格な内容より、どれだけダイエットを続けられるかのほうが重要だという結論でした。
一般に、運動のみで体重を減少させるのに比べ、食事改善と合わせて行ったほうが体重の減量がしやすく、内臓脂肪の減少量も大きくなります。そこで、運動に加えて「食事バランスガイド」など(図11)を参考に食事の改善を行うことにより、内臓脂肪の減少量を大きくすることが可能となります。