生活習慣病の基礎知識

休養

きゅうよう
Rest

分類:生活習慣病の基礎知識 > 生活習慣病の危険因子

広告

広告

 近年、24時間社会の拡大により、国民の睡眠を取り巻く環境は大きく変化しました。しかし、ヒトは日中に活動し、夜に眠るのが本来の生物学的な姿です。

 睡眠は、生活習慣の一部であるとともに、神経系、免疫系、内分泌系などの機能と深く関わる、生活を営むうえでの自然の摂理であり、健康の保持および増進にとって欠かせないものです。

 睡眠不足や睡眠障害などの睡眠の問題は、疲労感をもたらし、情緒を不安定にし、適切な判断力を鈍らせるなど、生活の質に大きく影響します。また、こころの病気の一症状としても現れます。

 近年では、とくに無呼吸を伴う睡眠の問題(睡眠時無呼吸症候群)が、高血圧、心臓病、脳卒中の悪化要因として注目されています。さらに、事故の背景に睡眠の問題がある事例が多いことなどから、社会問題としても顕在化してきているところです。

睡眠状況の実態

 厚生労働省による「国民健康・栄養調査」(平成27年)によれば、1日の平均睡眠時間は、男女とも「6時間以上7時間未満」が最も高く、それぞれ33.9%、34.2%でした。1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合について、この10年でみると、平成19年以降有意に増加しています。

 睡眠の質については、1日の平均睡眠時間別にみると、6時間未満の人が、男女とも有意に不良です。6時間未満の人では、男女とも「日中、眠気を感じた」が最も高く、それぞれ44.5%、48.7%となっています。

睡眠不足の害

 歴史的な大事故のほとんどは、労働者の極度の睡眠不足が主要な原因のひとつにあげられています睡眠が不足すると作業効率が悪くなり、不注意によるミスが多発し、ちょっとした居眠りが世界を巻き込むような大事故につながるのです。

 もっと身近な例では、交通事故があります。さまざまな調査の結果、睡眠不足の人が交通事故を起こす確率は、ぐっすり眠っている人の2~3倍とされています。また、交通事故の発生時間を調べてみると、事故の件数は夜~深夜の時間帯が非常に多いことがわかっています。これも睡眠不足による居眠り、不注意が事故の原因になるという事実を物語っています。

 自分たちは夜起きていても大丈夫だ、深夜に働いても頭がさえて注意力も十分だと思っていても、それは主観的な感覚です。実際は、主観的な眠気と客観的な眠気は解離しているということを認識しなければなりません。

体への影響

 睡眠は、疲労回復に重要な役割を果たしています。睡眠のメカニズムは十分には解明されていませんが、脳の視床下部から免疫調整物質や睡眠調節物質が放出されることによって、睡眠が誘導され、脳神経系‐免疫系‐内分泌系のバランスの維持回復が行われていると考えられています。睡眠障害が起こると、このバランスがくずれ、疲労が発生し、さまざまな自覚症状が現れてきます(表4)。

 睡眠不足が身体機能に与える影響としては、免疫系と循環器系の機能低下が最も重大なリスクであるといえます。免疫系の機能が低下すると肌荒れが生じたり、かぜをひきやすくなるほか、発がんの危険性が高まることもわかっています。循環器系では心臓への負担が増大し、不整脈が発生、血圧も上昇し、とくに高血圧の人は注意が必要です。

 睡眠不足のために、セロトニンやメラトニン、そして成長ホルモンの分泌が少なくなり、逆にアドレナリンの分泌は多くなる傾向にあります。アドレナリンの分泌が増えれば、尿中に排泄されるビタミン量も増え、結果としてはストレスに非常に弱くなります。近年、とくに無呼吸を伴う睡眠の問題は、高血圧などにより心臓病や脳卒中につながるとともに、血液中の糖の濃度を適切に維持する能力が低くなる(耐糖能の低下)ことが報告されています。

(東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授 和田高士)

表4 疲労感の構造表4 疲労感の構造