こころの病気

知的障害

ちてきしょうがい
Mental retardation

初診に適した診療科目:神経内科 精神科 神経科

分類:こころの病気 > 精神遅滞

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どんな病気か

 知的能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態のことです。かつては、精神薄弱とか精神遅滞という言葉が使われていましたが、日本の法律・行政用語では知的障害という表現で統一されるようになっています。

 知的能力といってもかなり漠然としていますが、実際の日常生活において物事を判断したり、必要に応じて適切な行動を自分で行う能力であるといっていいでしょう。臨床的には、知能検査(幼児では発達検査)を行って、知能指数が70以下の場合には知的障害としてさまざまな援助の対象とされます。

 知的能力の低下した状態には、認知症もあります。これは、いったん知的能力が発達したあとに知的能力が低下するもので、老年の認知症はその代表例です。

 知的障害はこれと違って、生まれた時点、あるいは早期の乳幼児期に知的能力の発達そのものがあまり進まない状態です。

原因は何か

 知的障害を起こす要因は、おおまかに3つに分けて考えられています。

①生理的要因

 体には特別の異常が見られませんが、脳の発達障害によって知能が低い水準に偏ったと考えられるものです。

②病理的要因

 脳に何らかの病気あるいは損傷があって、知能の発達が妨げられるものです。たとえば乳幼児期の脳外傷、感染症、出血などがあり、出産の際の障害も重要なものです。胎児の時期に母親が風疹、梅毒などに感染することや、有機水銀など体外から入った物質の中毒によるものもあります。染色体異常による知的障害にもいろいろあり、ダウン症はその代表的な例です。

③心理・社会的要因

 知的発達に著しく不適切な環境に置かれている場合であり、児童虐待はその典型例です。

症状の現れ方

 染色体異常による場合は、身体奇形を伴うことが多く、出産直後に判明するものも少なくありません。

 身体発達に異常がない場合には、乳幼児の発達課題を乗り越えることができず、少しずつ明らかになってくることが多くみられます。言葉の遅れ、遊びの不得手、体の動きの不器用さなどから判明してきます。

 知的能力の遅れだけではなく、社会生活への適応にも難のあることがみえてきます。計算、読み書きなど限定された部分の発達障害や、全体としての発達が水準以下だけれど部分的にずば抜けて能力を発揮する子どもは、療育のうえでは別に考えるのがよいでしょう。

 学校教育の方法や社会保障をどのように提供するかなど、行政援助と関連して、軽度(知能指数ないし発達指数が70〜50程度)、中度(同50〜35程度)、重度(同35以下)、最重度(同20以下)と分類されています。

検査と診断

 兄弟姉妹と比べて、あるいは近所の子どもと比べて、自分の子どもは発達が遅いのではないかという心配があれば、まず児童相談所へ行ってください。無料で知能検査や発達検査を行ってくれます。

 知能指数や発達指数の値により知的障害の水準を知るだけでなく、この水準でこのような気質の場合はどのような療育が必要であるかについてもきちんと相談にのってもらいましょう。小さな子どもの場合では、1年ごとに再検査して、どのように発達が変化してゆくかを追跡することも大切です。

 どのような種類のものであれ、障害は第三者的に客観的な表現が行われます。身体障害に関しては当事者が積極的に発言するようになって、大きく変化してきています。

 知的障害の場合はどうでしょう。関与してきた者として、知的障害者が困っているところを推量して、困り具合を一人称的に彼らの立場になって表現してみましょう。

・判断力や思考力の水準に由来する情報の不十分さ

・周囲の人から能力を適正に評価されないこと

・その人自身がみずからの障害を理解できないこと

・能力主義・効率先行の世相で、自尊感情を育てにくいこと

・自己主張をさせてもらえないこと

 彼らは、こういったことに由来する永続的なストレス状態に苦しんでいると考えられます。そこを計量しつつ接してあげるよう努力することが求められます。

治療の方法

 フェニルケトン尿症や被虐待児など、ごく一部の場合を除けば、知的障害に対する医学的治療はありません。てんかんなど身体的合併症がある場合は、もちろんそれに対する治療を行うことが必要です。

 一人ひとりの子どもに応じた療育を、障害児保育、言語療法、特殊教育のなかで実現していく必要があります。ある程度の障害のある子どもには、療育手帳を交付してもらい、特別児童扶養手当の受給手続きをとることも大切です。公的援助の内容と手続きについては、児童相談所に相談してください。

関連項目

 言語発達障害および学習障害広汎性発達障害自閉症(コラム)、アスペルガー症候群注意欠如多動性障害

(関西國際大学大学院教授 清水將之)

「自閉症」という言葉

 「自閉症」という概念は、1943年にレオ・カナーによって「早期幼児自閉症」として報告されましたが、その後、認知・感覚機能に関する研究とともに、対人関係のあり方に関する研究が進んだことによって、自閉症の理解は飛躍的に進歩してきました。「早期幼児自閉症」は簡略化されて「自閉症」といわれたり、「自閉性障害」などと使われるようになり、さらには「高機能自閉症」「低機能自閉症」という使い方も始まっています。

 今日的には、これらをまとめて「自閉症スペクトラム」または「自閉症連続体」といい、「低機能自閉症」(一般的にはIQ70未満)をカナー症候群といい、「高機能自閉症」(一般的にはIQ70以上)をアスペルガー症候群といいます。

 大きなくくりからいって広汎性発達障害の一種であることから、ADHDや学習障害とも近縁です。したがって「高機能自閉症」といわれるなかには、ADHDや学習障害のある人もいます。

 「低機能自閉症」では、前述のようにIQ70未満の人が一般的なので、多くは知的障害を併せもっています。「低機能自閉症」では、回転するものに興味をもつ人が多く、また手を引っぱってそこにつれていこうとする「クレーン現象」を示すことが多くなります。また、今日的にいえば「低機能自閉症」であるカナー症候群のなかには、高い記憶力をもつ人もあり、カレンダーを見ることなく曜日を的中させるなど、「サバン症候群」と呼ばれる能力をもつ人もいます。

 2001年5月にWHOが採択した国際生活機能分類(ICF)は、障害を疾病面からとらえるだけでなく生活面からとらえるものであり、こうした障害理解と障害者理解が広がることによって自閉症理解はさらに発展を遂げることは確実であり、これによって自閉症への教育的あるいは福祉的関わりも大きく変わるはずです。

 これまでは、教育的あるいは福祉的なはたらきかけとしては、個人的なはたらきかけとしての行動療法が行われてきたほか、TEACCHの手法を取り入れるところも多かったのですが、このような障害理解と障害者理解に基づいた「自閉症」の新たな理解を踏まえ、これまで以上に「自閉症」のノーマライゼーションはさらに進むものと考えられます。

(中部学院大学大学院人間福祉学研究科教授 吉川武彦)