遺伝的要因による疾患

先天異常で大切な社会的ノーマライゼーション対策

分類:遺伝的要因による疾患

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 男性の20人に1人に見つかる色覚特性(最近では〝異常〟といわず、特性と呼ぶことが多い)は伴性遺伝病として有名ですが、大多数の患者さんは“病気”ではありません。職業上の制限があると信じられていますが、多くの制限は“偏見”によるものです。

 人間は誰でもまわりが暗くなると色彩はわからなくなりますし、一人ひとりの色彩感覚はかなりの個人差があります。色覚特性をもっている人は多いので、社会的にもいろいろな対策がとられています。“進め”の信号の色(緑)は、色覚特性の人が判別しやすい青に変えられました。車の方向指示ランプで赤が禁止されたのも同じ理由です。事務で使う伝票の色や電線コードの色も色覚特性の人が区別しやすい色になっています。

 厳密には色覚特性は運転免許の欠格条件ですが、運転免許試験は信号の色の識別さえできれば1種免許は取得できるので、多くの色覚特性の人は車の運転ができます。義務教育における色覚検査は廃止されましたし、医学部や薬学部の入学試験でも色覚特性を理由に入学を断られることはありません。

 日本では、軍国主義時代に〝良い兵隊〟をつくるために小学校で色覚検査が導入され、戦争後も長く残ったため、色覚特性に対する深い偏見が生まれたといわれています。欧米では、装具(眼鏡)を必要とする近視のほうが、障害としては重いといわれているくらいです。

 このように社会的な対策が進んだ結果、色覚特性をもった人が“障害”を感じることはほとんどなくなりました。先天異常の多くの障害は治療が困難なので、“障害”を感じない社会づくりが大切なのです。

(お茶の水女子大学大学院遺伝カウンセリングコース客員教授 千代豪昭)