感染症

人獣共通感染症

分類:感染症

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全世界で200以上の感染症

 自然な状況下で、ヒトと脊椎動物との間で伝播する病気あるいは感染症のことで、人畜共通感染症、動物由来感染症とも呼ばれています。

 病気の種類では全世界で200以上、日本国内にも60以上あるといわれています。ヒトに感染する病原体は1415種あると報告されていますが、その61%にあたる868種が、ヒトだけではなく他の動物にも感染することが知られています。

 動物に咬まれたり、動物の排泄物や体液に触れたり吸い込んだりして感染するほか、汚染された肉や乳製品などの食品、あるいは水や土壌を介して経口的に、または汚染した器物などを介して経皮的に感染することもあります。また、蚊やダニ、ノミなどの節足動物に刺されたり咬まれて感染する場合もあります。

 これら人獣共通感染症の33%が、さらにヒトとヒトとの間で伝播することが知られています。すなわち、多くの人獣共通感染症はヒトに感染したあとに、ヒトの間で流行するようなことはありません。

新興感染症の75%

 これまでに知られていなかった感染症や、これまでには存在が知られていなかった地域に新たに出現した感染症のことを新興感染症といいますが、その75%は人獣共通感染症であるといわれています。

 新興感染症の多くは、ごく限られた地域で、病原体とその自然宿主である動物との間で感染のサイクルが形成されていたものです。ところが、森林伐採、ダム建設など土地利用の変化、開発途上国における都市化、人口の急増、航空輸送の発達、食品流通の形態および量の変化、気候の変動などの要因が絡み合って、これらの感染症が突然出現し、場合によっては全世界へ拡大することになります。

 公衆衛生関係者は、新たに出現した感染症が、ヒトとヒトとの間で大きな流行を起こすことを警戒しています。これまでのところ、種の壁を越えてヒトに感染するようになった感染症で、ヒトとヒトとの間で流行するようになり、公衆衛生上重大な問題になったのはエイズです。しかし、エイズの病原体はもはや自然条件下では動物に伝播しなくなっているので、人獣共通感染症とはいいません。

 また、食品を介する人獣共通感染症は、その被害規模が大きくなるので対策が必要です。ヒトからヒトへの感染は起こらなくても、ウシやニワトリなど病原巣になる動物の個体数が多かったり、致死率が極めて高い感染症の場合はやはり警戒が必要です。

 あまり重症化することもなく、ヒトからヒトへと伝播することもない人獣共通感染症については、個人レベルでの常識的な衛生管理を行えば、ほとんどの場合問題になることはありません。

(国立感染症研究所獣医科学部部長 山田章雄)