外傷

狂犬病

きょうけんびょう
Rabies

初診に適した診療科目:外科

分類:外傷 > 外傷による特殊感染症

広告

広告

どんな病気か

 狂犬病ウイルスの体内への侵入により、一定のけいれんなどの重い症状を起こす致死性の疾患です。治療法はなく、発症後3〜5日で死亡します。

 日本では1957年以降、狂犬病の感染はないため、通常では狂犬病の予防処置は必要ありません。しかし、最近では2006年にフィリピンでイヌに咬まれて帰国後に発症し死亡したケースがあり、次のような場合には予防が必要となります。すなわち問題になるのは、①狂犬病の流行地域に生息する予防接種未施行の動物に咬まれた時や、②狂犬病の流行地域へ行き、野生の動物に接触する機会がある場合です。

原因は何か

 狂犬病に感染した動物に咬まれ、狂犬病ウイルスがヒトに侵入すると、ウィルスは1日に数㎝以下の速度で神経を伝わり脳まで達し、致命的な脳炎を起こします。感染は咬まれること以外にも、以前にできた創(傷)をなめられること、コウモリのいる洞窟内に漂っているウイルスを吸入すること、感染動物の死体を扱う時に組織粉を吸入することなどでも発生します。また、脳炎で死亡した人から摘出した角膜の移植を受けて感染した例も報告されています。

 狂犬病ウイルスに感染してヒトへ伝搬する動物は野良イヌが多く、ほかにネコ、サル、オオカミ、アライグマ、ジャッカル、キツネ、齧歯類(ネズミ、リスなど)、コウモリなどがあげられます。

 流行地域は日本・オセアニア・英国を除く国々です。

症状の現れ方

 潜伏期は通常20〜90日ですが、1年以上たったのちに発症する例もあります。典型例では、はじめに傷痕の痛み・かゆみ、頭痛、発熱があり、不安や興奮、呼吸困難感、食べ物を飲み込めない、水を飲もうとするとのどの筋肉のけいれんが起こってつらいため水を避ける症状(恐水症状)が現れます。また、物音や光などの刺激によっても容易にけいれんが起こります。発症後3〜5日で呼吸不全、昏睡状態となり死亡します。

 一方、麻痺が中心となる病型があり、このタイプは背部の痛みで発症し、咬まれた創の付近から麻痺が進行して呼吸や嚥下ができなくなり、延髄が侵されて呼吸停止となります。

検査と診断

 現在のところ、発症前に狂犬病に感染したことを診断することはできません。また、発症後は治療法がありません。そのため、狂犬病の流行地域に生息する野生動物に咬まれた時や創をなめられた時は、狂犬病の感染の疑いありとして予防接種を施行します。原因動物を捕獲できれば、その動物の狂犬病の診断を行います。

 狂犬病にかかっているイヌでは、狂暴で興奮して甲高い鳴き声を上げることが多くみられ、発症後3〜15日で死亡します。脳組織を採取して神経の細胞質中にウイルスの封入体を証明することにより診断が確定します。

狂犬病の疑いのある動物に咬まれた時

①局所の消毒

 すぐに創を大量の水道水と石鹸でよく洗い、アルコールまたはポビドンヨード液で消毒し、医師に相談してください。

②予防接種(曝露後接種:狂犬病の基礎免疫がない人が狂犬病ウイルスにさらされたあと、予防接種を受けること)

 狂犬病の流行地域に生息する予防接種未施行の動物に創をなめられたり、引っかかれたり、咬まれたりした時は、すみやかに狂犬病ワクチンと抗狂犬病特異的ヒト免疫グロブリンを予防接種する必要があります。

a.狂犬病ワクチン(組織培養不活化狂犬病ワクチン)

 5回法では0、3、7、14、30日めに狂犬病ワクチンを接種します。あるいは5回法に90日めの接種を加えた6回法を行います。以降、追加接種を2、3年ごとに行います。

b.抗狂犬病特異的ヒト免疫グロブリン(血清療法)

 狂犬病ワクチン未接種の人が狂犬病が疑われる動物に接触した場合、あるいは顔面や手指を咬まれた場合に必要です。抗狂犬病特異的ヒト免疫グロブリンを、咬まれたあと、3日以内に投与します。

 ただし、国内では未認可で販売されていないので、現状では国外で行うことになります。また、狂犬病の流行国であっても、抗狂犬病特異的ヒト免疫グロブリンは入手困難なことがあるので、狂犬病の流行地域へ赴任する場合は、あらかじめ狂犬病ワクチンにより基礎免疫をつくっておくことをすすめします。

狂犬病流行地域で野生の動物に接触する機会がある時

 狂犬病ウイルスにさらされる前に狂犬病の基礎免疫をつくるための予防接種を受けることが大切です。

 渡航前に厚生労働省検疫所や医療機関を受診して、曝露前接種を行うことをすすめます。狂犬病の基礎免疫をつくるため、日本では3回接種(初回、4週間後、6〜12カ月後)を行っています(Forth for traveler's health: http://www.forth.go.jp/)。一方、WHOや米国のCDC指針では1カ月間に3回接種(初回、1週後、3〜4週後)を推奨しています(CDC: http://www.cdc.gov/)。

 曝露前接種を受けていても狂犬病が疑われる動物に接触した場合は、狂犬病ワクチンの2回の追加接種(最終接種後6カ月以上たっている場合は、5回以上の追加接種)が必要になります。

(川崎市立川崎病院救命救急センター室長・救急部長 田熊清継)