膠原病と原因不明の全身疾患

シェーグレン症候群

しぇーぐれんしょうこうぐん
Sjo¨gren's syndrome

初診に適した診療科目:リウマチ科

分類:膠原病と原因不明の全身疾患 > 膠原病

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どんな病気か

 シェーグレン症候群(SS)は、歴史的には1930年にスウェーデンの眼科医シェーグレンによる関節リウマチ(RA)を合併した乾燥性角結膜炎の報告が最初です。1933年にドライアイ、ドライマウス、関節炎の症状をもつ19例を発表して以来、報告者の名前をとりシェーグレン症候群と名づけられました。

 慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎が主な症状ですが、全身の臓器の病変も伴うため、内科、眼科、耳鼻科、歯科口腔科の各科が共同して診療を進める必要のある病気です。医学上の分類では膠原病に含まれます。

 血液検査では多様な自己抗体が陽性になり、多臓器に特殊なリンパ球の浸潤も認められ、自己免疫疾患のひとつとして位置づけられています。病変は唾液腺、涙腺だけでなく、全身の外分泌腺に生じる可能性があります。

 1993年度の厚生(当時)省特定疾患自己免疫疾患調査研究班の検討によると、シェーグレン症候群の有病率は人口10万人に約15人とされています。男女比は1対14で女性に多く、発症年齢のピークは40〜60代となっています。都道府県により異なりますが、難病特定疾患と指定されて医療費の補助を受けられるところもあります。

原因は何か

 原因は自己免疫疾患と考えられています。自己免疫疾患とは何らかの原因で免疫異常が生じ、自分の体にある蛋白質を抗原として認識して自己抗体やリンパ球により自らを攻撃してしまう病態です。自己免疫応答を誘導する先行因子として、細菌やウイルスの感染が関係しているとの報告があります。引き続き起こる炎症は、リンパ球で作られるサイトカイン(IL‐1、TNF‐α、IL‐6など)が中心となって引き起こされます。

 最終的には、細胞傷害性リンパ球などにより唾液腺・涙腺組織が壊されるため、唾液、涙液の分泌低下が認められ、乾燥症状を示すことになります。事実、病理学的には、唾液腺や涙腺などの導管、腺房周囲の著しいリンパ球浸潤が特徴的であり、最終像では、腺房の破壊、萎縮がみられます。

症状の現れ方

 臨床症状は多様ですが、大まかに腺症状と腺外症状とに分けられ、それぞれ表7のようになります。

 問診の際にチェックすべき項目は以下のとおりです。

・食事の時、水を必要とするか?

・口腔乾燥感があるか?

・舌先に異常な感覚がないか?

・味覚の異常があるか?

・唾液腺がしばしばはれるか?

・眼が疲れやすいか?

・眼がゴロゴロするか?

・眼の灼熱感や違和感があるか?

・日に3回以上、眼薬をさすか?

 このような問診によりドライマウスやドライアイ症状の有無を診断します。ドライアイは、“疲れ眼”の6割を占めるといわれていますが、その乾燥症状が即シェーグレン症候群ということではありません。

 腺外症状としての関節炎は、関節リウマチと同じように朝のこわばりがあり、両側に関節痛が起こりますが、関節リウマチと異なりこわばりの持続時間が短時間であり、関節の変形を来すような激しい関節炎は少ないです。しかし、当然ながら関節リウマチを合併した二次性シェーグレン症候群では、関節リウマチに特徴的な関節炎の所見を示します。

検査と診断

 いくつかの特徴的な症状を示す症候群であるために、診断基準により確定診断が行われます。1999年に改訂された厚生省(当時)の診断基準を表8に示します。

 検査には、眼科検査、生検病理組織検査、口腔検査、血液検査などがあります。眼科的検査のひとつはシルマー試験です。これは、ろ紙を下まぶたに当てて涙液量を測定する検査です。5分間で5㎜以下を陽性所見としています。ローズベンガル試験と蛍光色素試験は、色素を用いて乾燥性角結膜炎の存在を検討する検査です。

 小唾液腺と涙腺生検は組織学的にSSを検討するために必要な検査です。導管周囲に50個以上の単核球の浸潤がみられる場合を陽性所見としています。

 唾液腺造影は唾液腺の組織破壊の程度を反映します。直径1㎜以上の小点状陰影が認められれば陽性です。最近では唾液腺シンチグラフィを用いた検査も行われます。軽症例では耳下腺、顎下腺へ99mTc‐ペルテクネテートの集積がはっきりとみられ、高度の唾液腺障害例では、逆に集積がほとんどみられません。

 血液検査では、CRP陽性、赤沈値亢進など炎症反応が陽性であり、高ガンマグロブリン血症が60〜80%にみられています。とくにガンマグロブリンのなかでIgG、IgAが増えており、また血液の粘稠度を高め血栓ができやすくなるクリオグロブリン(IgM‐IgG)も検出されることがあります。

 赤血球も白血球も減る傾向にあり、貧血および白血球減少症は約30〜60%の頻度でみられています。血小板数の変化はまれで、10%以下の頻度で減少がみられますが、そのなかには特発性血小板減少性紫斑病の合併も散見されます。

 自己免疫疾患の原因である自己抗体の存在は、種類としては抗核抗体が70〜80%と高率に検出されます。抗La/SS‐B抗体は、本症に特異性が高く診断的意義が高いのですが、検出率は20〜30%にとどまります。本抗体陽性の患者さんは、常に抗Ro/SS‐A抗体も陽性です。抗Ro/SS‐A抗体は陽性率が50〜70%と抗La/SS‐B抗体に比較して出現率の高い自己抗体です。抗Ro/SS‐A抗体は他の膠原病にも検出されるため、特異性は抗La/SS‐B抗体より低いことになります。リウマチ因子は関節リウマチの合併のあるなしに関係なく約70%の患者さんで認められています。

 その他の自己抗体として、抗RNP抗体、抗セントロメア抗体、抗ミクロゾーム抗体、抗ミトコンドリア抗体などが検出されることがあり、多様な自己抗体が現れる自己免疫疾患です(表9)。ツベルクリン反応の陰転化、自己リンパ球混合培養反応の低下、NK細胞の機能低下などもあって、これは細胞性免疫の異常としてとらえられています。

 区別すべき疾患としては、ドライアイを来すアレルギー性結膜炎などの眼疾患、糖尿病、唾液腺萎縮症、薬剤の副作用などによるドライマウス、他の自己免疫疾患(膠原病)、とくに関節リウマチや全身性エリテマトーデスの合併について適切に診断することが、治療にあたるうえで重要になってきます。

治療の方法

 治療は腺外症状の有無により異なります(表10)。腺症状だけの腺型シェーグレン症候群では、日常生活ではあくまでも対症療法が中心となり、外部環境に気をつかい、眼や口に風が当たらないようにメガネやマスクを使用し、室内では加湿を心がけてください。

 ドライアイに対して、防腐剤を含まない人工涙液(眼薬)、プラグを用いた涙点閉鎖、ドライアイ保護用眼鏡などが有効です。ドライマウスに対しては、うがい、サルベートなどの人工唾液、ガム、去痰薬、麦門冬湯(漢方薬)、フェルビテンなどが有効でしょう。最近、ムスカリン受作動性アセチルコリン受容体を刺激する塩酸セビメリン(サリグレン、エボザック)および塩酸ピロカルピン(サラジェン)が発売されましたが、ドライマウスに対して有効です。

 活動性で炎症症状が強い腺外型や二次性シェーグレン症候群に対しては、その炎症を抑えるために副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)が使用されます。とくに活動性が高いと考えられるのは、①進行性の間質性肺炎、糸球体腎炎、間質性腎炎、自己免疫性肝炎、中枢神経障害、②高ガンマグロブリン血症やクリオグロブリン血症に伴う高粘度症候群、③持続する発熱や全身リンパ節の腫脹(偽性リンパ腫)、④反復性の唾液腺腫脹、⑤二次性シェーグレン症候群などです。

 ステロイド薬の用量は、重い病変に対しては適切な時期にプレドニゾロン換算で30〜60㎎/日を投与し、また、炎症症状が弱い場合では、5〜15㎎/日と比較的少量で十分な効果が得られるでしょう。症状、検査所見などから必要と思われる時には積極的に使用するべきです。

 免疫抑制薬(シクロホスファミド)も重症例では有効とされていますが、腎毒性、悪性リンパ腫の発症の危険性を考慮しなければなりません。投薬は最善の戦略を立て、注意深く行われなければなりません。さらに、慢性甲状腺炎、原発性胆汁性肝硬変症、尿細管性アシドーシス、悪性リンパ腫などの合併症がある場合、それぞれに対する個々の治療が必要となります。

 腺型シェーグレン症候群は、一般に予後が良好です。腺外型や二次性シェーグレン症候群は、活動性が高く難治性であることが問題になります。とくに、進行性の間質性肺炎、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、中枢神経障害、高粘度症候群などの病変が現れた場合は予後が不良になります。シェーグレン症候群には悪性リンパ腫の合併もみられており、その発症率は健常人に比して40〜80倍高いと報告されています。

病気に気づいたらどうする

 ドライマウス、ドライアイ、関節痛などの症状に気づいたら、リウマチ科の専門医、とくに内科系リウマチ専門医の診察を受けてください。確定診断には、血液検査、眼科的検査、歯科口腔外科的検査などが必要であることを認識しておいてください。

 日常生活では、うがいなどにより口腔内を常に清潔に保つことを心がけます。

 また、シェーグレン症候群の患者さんは、さまざまな薬に対して薬剤アレルギーを起こしやすいので注意してください。

(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻臨床免疫学教授 住田孝之)

表7 シェーグレン症候群の臨床症状表7 シェーグレン症候群の臨床症状

表8 シェーグレン症候群の改訂診断基準(1999年)表8 シェーグレン症候群の改訂診断基準(1999年)

表9 シェーグレン症候群の自己抗体陽性率表9 シェーグレン症候群の自己抗体陽性率

表10 シェーグレン症候群の治療表10 シェーグレン症候群の治療