中毒と環境因子による病気

放射線障害

ほうしゃせんしょうがい
Radiation injury

初診に適した診療科目:内科

分類:中毒と環境因子による病気 > 環境因子による病気

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どんな病気か・原因は何か

 放射線は、電離放射線(X線、γ線、α線、β線、電子線、陽子線、重粒子線、中性子線)と非電離放射線(紫外線、赤外線、可視光線、マイクロ波、レーザー光線、磁場)に分けられます。また、電離放射線は、電磁波(X線、γ線)、荷電をもつ粒子線(α線、β線、電子線、陽子線、重粒子線)、荷電をもたない粒子線(中性子線)に分けられます。

 一般的には、電離放射線による障害を放射線障害といっています。具体例としては、原子炉事故、臨界事故、X線発生装置による事故、電離放射線取り扱い従事者の被曝事故などです。電離放射線の生体への影響としては、早期障害と晩発障害、後世代的障害があります。

障害の現れ方

①早期障害

 被曝後数週間以内に現れる障害を早期障害といいます。

・急性放射線症

 短時間で、全身あるいは身体の広範囲に、高線量の放射線を被曝すると、被曝線量に応じていろいろな障害が現れてきます。これを急性放射線症といいます。

 被曝後最初の48時間以内に現れる食欲不振、悪心(吐き気)・嘔吐、倦怠感などの症状を前駆症状と呼びます(前駆期)。

 潜伏期は、前駆期から発症期に至る中間の過程で、疲労感のほかには無症状の期間です。

 発症期には、6〜7Gy(グレイ:吸収線量)以下の被曝で、放射線感受性の高い骨髄の障害が主に現れます。骨髄が障害されると、白血球減少や血小板減少、貧血がみられます。皮膚では紅斑や脱毛(5Gy以上)、潰瘍(25Gy以上)、壊死(500Gy以上)が発生します。10Gy以上の被曝では、骨髄障害に加えて消化管の障害が起こり、腹痛や嘔吐、下痢などがみられます。

 数十Gy以上の被曝では、骨髄・消化管の障害に加えて、中枢神経系の障害が発生し短時間で死亡します。中枢神経系の障害により、感情鈍麻、興奮、運動失調、けいれん、意識障害などが現れます。発症期を乗り切れた場合には、回復期に移行します。

・眼障害

 眼の組織のなかで、最も放射線感受性が高いのは水晶体です。被曝により水晶体は混濁し、進行すると白内障になります。5Gyの1回被曝あるいは8Gy以上の分割被曝で白内障が発生します。

・生殖機能障害

 男性では精原細胞、女性では卵母細胞が最も放射線感受性の高い細胞です。一時的に不妊の起こる吸収線量は、男性で0・15Gy、女性で0・65〜1・5Gyです。また、永久的に不妊の起こる吸収線量は、男性で3・5〜6・0Gy、女性で2・5〜6・0Gyです。

②晩発障害

 被曝線量が低く、死に至らなかった場合には、数カ月から数十年後に白血病や皮膚がんなどの悪性腫瘍の発生、白内障、老化の促進などが現れます。これを晩発障害といいます。

③後世代的障害

 胎児障害(奇形など)や遺伝的障害(染色体異常など)などを後世代的障害といいます。

④確率的影響と確定的影響

 悪性腫瘍や遺伝的障害は、被曝線量の増加に伴って発生頻度が高くなります。これを確率的影響といいます。骨髄障害や皮膚障害、眼障害、性腺機能障害などは、ある一定量以上の被曝で発生します。これを確定的影響といいます。

治療の方法

 電離放射線の被曝からの離脱が最も重要です。各障害では、重症度に応じた治療が必要です。

病気に気づいたらどうする

 被曝してしまったら、内科を受診し、自覚症状の有無などの問診、皮膚や眼などの身体的検査、白血球数や赤血球数などの血液検査を受ける必要があります。

(東京慈恵会医科大学環境保健医学講座教授 柳澤裕之)