中毒と環境因子による病気

向精神薬

こうせいしんやく
Psychotropic drug

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 脳に作用して脳のはたらきに影響する薬を総称して向精神薬といいます。効き目が強く精神疾患に用いられる抗精神病薬や、うつ病に用いられる抗うつ薬などがあります。

①抗精神病薬中毒

 一般に精神を鎮静化させるもので、眠気をおぼえ、判断が鈍くなり、周囲に無関心になるので、車の運転や危険な作業はひかえる必要があります。また、血管、呼吸、消化器などすべての体の自律神経系を抑えるため、起立性低血圧・不整脈、呼吸抑制、口の渇き、鼻づまり、光がまぶしい、尿が出せなくなる(尿閉)、嘔吐やイレウス(腸閉塞)などもみられます。

 さらに筋の動きや運動を調節する錐体外路系に作用して、パーキンソン症候群を起こします。肝臓や骨髄にも作用して、黄疸や白血球減少症も起こします。

 最も有名なものが悪性症候群で、急激な高熱、筋強剛(筋肉が硬くなる)、頻脈、発汗、血圧上昇、頻呼吸、意識障害、無言、無動などがみられ、危険な状態になります。ただちに服薬を中止して医師の診察を受けてください。

②抗うつ薬中毒

 うつ病の治療には、三環系・四環系抗うつ薬(イミプラミン、アンセリンなど)や、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(パロキセチンなど)が用いられています。通常量服用の100万人あたりの致死中毒数は、前者で10〜30人以上、後者で10人以下とされています。

 中毒症状では、①心臓毒性(不整脈、心停止、低血圧)、②昏睡(せん妄、精神状態の悪化、あせり、発汗、筋の協調障害)、③けいれんがみられます。そのほか、ミオクローヌス(筋肉がピクピク動く)、震えがみられ、筋障害、腎不全、妄想、高血圧、便秘、緑内障、呼吸不全を起こすこともあります。なお、躁状態に用いられるリチウム剤でも、嘔吐、下痢、意識障害、けいれん、乏尿(尿が著しく少なくなる)がみられます。

③睡眠薬中毒

 以前はバルビツール系の薬が多く使われ、自殺などにも用いられましたが、最近ではベンゾジアゼピン系の薬が用いられ、高い安全性と自然に近い睡眠作用が得られています。しかし、大量摂取では中毒を起こします。中毒の大部分は、自殺目的によるものです。いずれも主症状は、意識障害、血圧低下、呼吸抑制です。

 バルビツール系の薬では、連用すると慣れ(耐性)が現れやすく、徐々に量が増え、また、やめられなくなります(依存症)。服用をやめると精神不穏、震え、立ちくらみ、けいれんが起こり、異常な精神状態になります(退薬症候群)。

 ベンゾジアゼピン系の薬は、一般に摂取量が多くても生命の危険は少ないとされていますが、重症例では、前述の向精神薬中毒と同じ症状がみられることがあります。特殊な拮抗薬として、フルマゼニル(アネキセート)があります。

(産業医科大学学長 和田 攻)