肝臓・胆嚢・膵臓の病気

ウィルソン病

うぃるそんびょう
Wilson disease

初診に適した診療科目:消化器科 内科

分類:肝臓・胆嚢・膵臓の病気 > 肝臓の病気/肝硬変・門脈圧亢進症

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どんな病気か

 ウィルソン病は、常染色体劣性遺伝に基づく先天性銅代謝異常症です。胆汁への銅の排泄障害およびセルロプラスミンへの銅の取り込みの障害が本態です。

 銅が全身の臓器、とくに肝、脳、角膜、腎などの細胞内に過剰に沈着し、その結果引き起こされる細胞障害、臓器障害に基づき、さまざまな臨床像を示します。肝障害と脳幹基底核変性に基づく症状が特徴的です。そのためにウィルソン病は肝‐レンズ核変性症とも呼ばれています。

原因は何か

 ウィルソン病は、前述したように常染色体劣性遺伝形式に基づいています。保因者は、日本では100〜150人に1人と推定され、欧米の200人に1人という頻度よりも高く、決してまれな病気ではありません。また、ホモ保因者で発症するのは4万〜9万人に1人です。患者数や分布には地域差があり、その保因者頻度は近親婚率によって左右されます。したがって、母親、家族の問診では、とくに両親の近親婚の有無が重要です。

 最近、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウィルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれて、胆汁中への排泄障害が引き起こされます。

症状の現れ方

 多様な臨床症状を示します。とくに肝硬変、錐体外路症状(構音障害・嚥下障害、振戦、不随意運動、筋緊張亢進など)、カイザー・フライシャー角膜輪(角膜周辺に銅が沈着して1〜3㎜幅の暗褐色の輪が認められる)の古典的な3主徴のほか、精神症状、腎尿細管障害、造血障害、骨異常など種々の症状を伴うのが特徴です。

 ウィルソン病の原発臓器である肝臓の障害は、大きく劇症肝炎型(急性発症型)と慢性肝炎型に分けられます。後者は、脂肪変性から始まって慢性肝炎の時期をへて、徐々に経過しながら10〜20年後に肝硬変になります。肝硬変に移行すると、くも状血管腫、手掌紅斑、黄疸、腹水、脾腫、門脈圧亢進症状、食道静脈瘤、肝性脳症などの症状が出現します。

 好発年齢は、5〜20歳ころまでですが、30〜40歳で発症することもあります。銅の過剰蓄積は肝臓から始まるため、通常、肝障害が神経症状に先行します。一般に、10歳以下の若年発症のウィルソン病で肝障害が多いのはこのためです。その後年齢とともに、肝臓のほかに、脳幹基底核、腎、角膜への銅過剰蓄積が始まります。したがって、10歳以降では神経・精神症状での発症が多くなります。

●臨床病型

 ウィルソン病の臨床病型は、表11に示すように、①発症前型(無症状期)、②肝型(10歳以下の小児期に多い)、③神経型(10歳以降に多く、年齢とともに増加する)、④肝神経型(神経型と同様の傾向)、に大別されます。

 肝型には、急性に発症する劇症肝炎型(腹部ウィルソン)と溶血型が含まれます。これらは劇症肝炎のような急性肝不全症状や溶血性貧血を伴う場合です。急激で広範な肝細胞の壊死と、これに伴って多量の銅が血中へ放出されることによって赤血球膜の障害(溶血)や急性腎不全が引き起こされるため、予後が非常に悪くなります。

●病期分類

 ウィルソン病の病期(自然経過)は通常Ⅰ〜Ⅲ期に分類されます。

 Ⅰ期は無症状期で、びまん性の銅沈着が肝細胞質に進行します。

 Ⅱ期は、肝細胞質の銅結合能が飽和状態となり、過剰な銅が肝臓内に再配分され、肝臓から放出されます。この再配分は患者さんの3分の2では緩やかに行われますが、時に急激で、肝細胞の大量壊死をもたらします。

 Ⅲ期は、肝の線維化や肝硬変が進行します。銅は脳、角膜、腎など肝臓以外の臓器や組織にも沈着して、それぞれの臓器障害を起こします。その速度や中枢神経への銅の蓄積が遅いと無症状状態が続くことがあります。一方、肝障害が急速であれば、Ⅱ期のように肝細胞壊死、肝不全を起こします。

 後述する治療によって、銅代謝のバランスが是正されると、肝障害や中枢神経障害の進行が抑えられて、多くは無症状となりますが、門脈圧亢進症状、不可逆性の脳障害は長く残ります。

検査と診断

 幼児期、学童期の発病は肝障害型が多いため他覚的所見が少なく、診断には家族、とくに母親への問診が重要です。子どもの無気力、集中力低下、学業低下、食欲不振、動作緩慢などの症状に母親など家族が気づいて受診する場合が多いからです。遺伝性の病気のため、血族に同じ病気をもつ人の有無も重要になります。

 早期発見が最も重要ですが、幼児や学童などに原因不明の肝機能障害がみられた時には(不随意運動などの神経症状を伴っている時にはなおさら)、まず第一にこの病気を疑うことが大切です。

 ウィルソン病の診断は、問診および臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量およびセルロプラスミン濃度の低下、尿中銅排泄量の増加、眼のカイザー・フライシャー角膜輪の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

 さらに、肝生検による組織診断(脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変)、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などによって、診断が確定します。

 他の重症肝障害に合併した二次性の低セルロプラスミン血症、肝内胆汁うっ滞症、精神神経症状を示す疾患(多発性硬化症、小脳疾患、パーキンソン症候群、舞踏病、精神病など)との区別が必要です。

治療の方法と予後

 治療の基本方針は、銅の排泄促進を図ることです。早期に発見して早期に適切な治療を行えば、銅代謝異常をコントロールすることが可能であり、予後を十分に改善できます。

 しかし、神経症状がかなり進行した場合には予後は不良です。死因は肝不全、食道静脈瘤の破裂による消化管出血、神経障害、感染症などです。

①食事療法

 生涯にわたって銅含有量の多い食物(たとえば貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など)の摂取を制限して、低銅食(1日1・5㎎以下)にする食事指導が行われます。

②薬物療法(表12

 体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排泄促進薬(キレート薬:D‐ペニシラミン、塩酸トリエンチン)による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。生涯にわたって必要な治療であることを十分説明してもらい、納得して治療に専念することが大切です。また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

 D‐ペニシラミン(メタルカプターゼ)は、日本人の初期量として1日1000㎎(10カプセル)前後を投与し、効果判定をしながら増減します。もしくは1日200〜400㎎(2分服)から始めて、漸増して800〜1200㎎を続けます(5歳以下では1日200〜400㎎)。効果の発現には数週間から数カ月を要します。

 この薬剤の副作用として、発熱、血球減少、皮疹、口角炎、全身性エリテマトーデス(SLE)様症状などに注意を要します。維持量に達したあとは決して中止しないように気をつけてください。リバウンド(反跳現象)を起こして劇症肝炎様になり急性肝不全を起こすことがあります。

 なお、メタルカプターゼにはピリドキシン拮抗作用があるので、大量に投与する場合にはビタミンB6を併用します。

(公立阿伎留医療センター院長/日本大学名誉教授 荒川泰行)

表11 ウィルソン病の臨床病型分類表11 ウィルソン病の臨床病型分類

表12 ウィルソン病での薬剤処方例表12 ウィルソン病での薬剤処方例