肝臓・胆嚢・膵臓の病気
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劇症肝炎
げきしょうかんえん
Fulminant hepatitis
初診に適した診療科目:消化器科 内科
分類:肝臓・胆嚢・膵臓の病気 > 肝臓の病気/肝炎
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どんな病気か
劇症肝炎とは、急性肝炎のなかでもとくに重症のもので、高度の肝機能不全と意識障害(肝性脳症または肝性昏睡と呼ぶ)を特徴とします。
日本では、表1に示すような診断基準に従って「昏睡型の急性肝不全」を診断し、そのうち肝炎によるものが劇症肝炎の病名となります。
診断するうえでの重要なポイントは、症状(発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振など)が現れてから8週(56日)以内に肝性脳症(意識障害)が現れること、肝機能の指標であるプロトロンビン時間が40%以下(正常は80%以上)を示すことです。
さらに、肝性脳症の出現までの日数により、2つの病型に分けています。すなわち、10日以内に肝性脳症が現れる急性型、11~56日以内に肝性脳症が現れる亜急性型です。
このように2つの臨床病型に分けたのは、両者の最終的な予後(生存するか、死亡するか)が異なることが最大の理由です。実際に、内科的な救命率(肝移植例を除く)は急性型30%、亜急性型20%です。
原因は何か
図3に現在の日本の劇症肝炎の原因別頻度を示しました。ウイルス、薬物(アレルギー)、自己免疫性肝炎によるものが主な原因です。今なお原因不明の例も多くみられます。
日本ではウイルスによるものが多く、しかもそのほとんどが肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)です。B型肝炎ウイルスによるものが多く、D型は日本ではほとんどありません。慢性肝炎や肝硬変、肝がんの原因として有名なC型が劇症肝炎を起こすことは極めてまれです。
薬物の中には、健康食品やサプリメントによるものも少なくありません。
症状の現れ方
劇症肝炎に特徴的な症状は肝性脳症(意識障害)ですが、初期症状は通常の経過をたどる急性肝炎と何ら変わりはありません。前述したように発熱、かぜ様症状、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などが最初に現れ、尿の色が濃くなって黄疸に気づくようになります。
意識障害出現までの日数はさまざまで、急性型と亜急性型がありますが、急性型のうち、肝炎様症状に続いて2~3日で出現する場合を超急性型と呼んでいます。
亜急性型ではあまり症状がなく、徐々に黄疸や腹水が増加したあとに、急に意識障害が現れることもしばしばみられます。
肝性脳症の程度は、昏睡度分類(表2)に従って判定します。昏睡Ⅰ度の判定は専門家でも難しい場合があり、普段の言動との違いから家族の方が先に気づくこともあります。昏睡Ⅱ度になると自分の置かれた状況がわからなくなるため、誰が見ても異常と判断でき、Ⅲ度に進行すると興奮状態やせん妄状態となり、体動が激しくなります。Ⅳ度はいわゆる昏睡状態で、痛みの刺激にしか反応しなくなります。
検査と診断
血液生化学検査では、肝機能検査、腎機能検査、血液凝固検査が行われます。とくにプロトロンビン時間の測定は必須ですが、肝臓で合成される蛋白質(凝固因子も含む)や脂質の状態を反映する検査項目(アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール)、ビリルビン抱合能(総ビリルビンと直接型ビリルビンとの比)、ヒト肝細胞増殖因子も重要な検査項目です。
血清トランスアミナーゼ(AST[GOT]、ALT[GPT])は肝機能障害の指標として有名ですが、劇症肝炎の診断には役立ちません。また、原因を探るために肝炎ウイルスマーカーも検査します。
各検査値は、どの時点で医療機関を受診したかで異なりますが、急性型と亜急性型では肝性脳症発現時の肝機能検査値に違いがみられます。
治療の方法
劇症肝炎の内科的治療法を表3に示しました。基本的には、肝性脳症の改善を図り、破壊された肝細胞が再生されるまで人工肝補助(血漿交換など)を行い、合併症(腎不全、播種性血管内凝固症候群、感染症、脳浮腫)の発生を防ぐことが重要です。
人工肝補助は、肝細胞の広汎な壊死および肝機能の低下によって体内にたまった中毒性物質(アンモニアなど肝性脳症の原因となる物質)の除去と、不足した必須物質(凝固因子など)を補充することを目的としています。
原因ウイルスが明らかな例では、抗ウイルス療法も行われます。
病気に気づいたらどうする
肝性脳症が出現したら、ただちに人工肝補助療法を開始しなければなりません。
また、明らかな意識障害がなくても、先に述べた肝機能検査で著しい異常を認めた場合には、劇症肝炎へ移行する危険性があることを考え、肝臓専門医と相談しながら治療を行い、できるだけ早期に専門的な治療が可能な医療機関へ移送することが大切です。