直腸・肛門の病気

便失禁

べんしっきん
Fecal incontinence

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どんな障害か

 便失禁は便意をがまんできずに、または無意識のうちに便がもれることをいい、便秘と同様に病気ではなく排便障害の症状のひとつです。

原因は何か

 一般に便失禁は、肛門をしめる筋肉(肛門括約筋)のはたらきが低下したために起こります。これには、分娩や肛門手術によって肛門括約筋がダメージをおって弱くなることが原因の場合(外傷性括約筋不全)と、とくに原因がなく自然に括約筋のはたらきが低下する場合(特発性括約筋不全)があります。

 また、加齢により骨盤底の筋肉全体が弱くなることや直腸の感覚が鈍くなること、さらに下剤の乱用が失禁の要因となることもあります。

症状の現れ方

 便意を感じないままに自然に便がもれてしまうタイプ(漏出性便失禁)と、便意をもよおしてからトイレに行くまでがまんできずに失禁してしまうタイプ(切迫性便失禁)、また、これらの両方を併せもつタイプがみられます。

 自然に便がもれてしまうタイプは、無意識での肛門のしまりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の患者さんなどに多くみられます。がまんできずに失禁してしまうタイプは、意識的に力を入れた時のしまりが弱くなっており、分娩時の会陰裂傷や複雑痔瘻の手術後などに多くみられます。

 また、直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便のまわりを下痢便がつたって失禁することがあります(オーバーフロー型便失禁)。

検査と診断

 診断は症状から明らかです。肛門括約筋のはたらきを詳しく調べる検査としては、内圧カテーテルを用いて肛門括約筋の力を測定する肛門内圧検査と、肛門括約筋の形状を超音波画像として描き出す肛門管超音波検査があります。

治療の方法

 対策は、まず失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や軟便になりがちな人は、それらをひかえるように注意します。

 また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。

 排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに坐薬や浣腸を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の失禁に対しては、一時的に便の排泄を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのもひとつの方法です。

 分娩時の会陰裂傷などで肛門括約筋に明らかな損傷がある場合には、括約筋を縫合する手術(括約筋形成術)を行うと失禁症状の改善が得られます。

(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター部長 山名哲郎)