運動器系の病気(外傷を含む)

神経線維腫

しんけいせんいしゅ
Neurofibroma

初診に適した診療科目:整形外科

分類:運動器系の病気(外傷を含む) > 骨軟部腫瘍

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どんな病気か

 末梢神経から発生するといわれている良性の腫瘍のひとつで、皮膚に発生するもの(皮膚神経線維腫)と、より体の深い部分から発生するもの(叢状神経線維腫)に分類されます。また、この病気は、全身性疾患であるレックリングハウゼン病(神経線維腫症Ⅰ型)において多発することでも知られています。

 皮膚に発生するタイプのものは、1本の末梢神経から発生するといわれており、思春期に発症することが多いようです。これに対して、叢状神経線維腫は複数の神経線維が発症に関与しており、サイズが大きくなる傾向にあります。レックリングハウゼン病の患者さんに発症するのもこのタイプです。

 神経線維腫という病名でも、軽症の場合は孤立した瘤のみを唯一の症状とし、ほとんど治療の必要がない場合がある一方で、重症の場合は全身に腫瘍が多発し、たとえ悪性化していなくても重要な臓器を破壊した結果、生命が危険になることもあり、非常に幅広い状態を表していると考えられます。

 また、叢状神経線維腫は遺伝子異常が次々に起こることで、悪性末梢神経鞘腫瘍という悪性腫瘍が発生することがあり注意が必要です。

原因は何か

 人間の第17番染色体にあるNF‐1と呼ばれる遺伝子に異常が発生し、この遺伝子が作る蛋白質(neurofibromin)が産生されなくなることが原因であるといわれています。通常この蛋白質は、細胞を無制限に増殖させるラスと呼ばれる一種のがん遺伝子の作用を中和しています。この蛋白質が作用しなくなることで、細胞が無制限に増殖し腫瘍が発生すると考えられています。

 こうした遺伝子異常は、親から子に遺伝することが知られていますが、遺伝子異常をもつ家系でない場合でもこの病気が発生することがあります。これは生まれたときには遺伝子に異常がなくても、いろいろな刺激などによって正常な遺伝子が傷つくことによります。

症状の現れ方

 多くは、皮膚やその奥の皮下組織に、まわりと境目がはっきりしない瘤として自覚されます。小さな皮膚神経線維腫はあまり痛みがありませんが、神経線維腫症などにみられる巨大な叢状神経線維腫は痛みを伴うこともあります。また、レックリングハウゼン病の場合は、カフェ・オ・レ斑と呼ばれる特徴的な皮膚のあざ、脊椎の側弯症、眼病変など多彩な症状を伴います。

検査と診断

 瘤がどこに存在しているかを正確に調べるために、MRIによる画像検査を行います。典型的な軟部腫瘍に比べると、正常な組織との境界があまり明瞭でないことが特徴です。皮膚のあざ(カフェ・オ・レ斑)はレックリングハウゼン病を疑う手がかりになります。

 正確な診断名をつけるには、組織の一部を取り出して顕微鏡で観察する必要があります。

治療の方法

 皮膚神経線維腫の場合、強い痛みなどの、患者さんの日常生活に支障を来す症状がない場合は経過観察のみでよい場合があります。皮膚神経線維腫では、腫瘍が神経から発生しているにもかかわらず、摘出手術を行っても神経に問題を来すことはあまりありません。

 叢状神経線維腫の場合は、強い痛みを伴う、悪性に進行する可能性があるなどの理由で手術を行うことがあります。多くの神経線維が発生母地となっているため、手術で腫瘍をすべて取り切った場合、麻痺などの神経障害が発生する可能性があります。まわりに多くの血管が絡まっている場合があり、手術で大出血を起こすことがあります。

 また、周囲との境界があまりはっきりしないことなどもあり、手術ですべての腫瘍を取り切ることが難しい場合もあります。手術を行ったあとも、再発や悪性転化などの危険性があり慎重な経過観察が必要です。

病気に気づいたらどうする

 まず、近所の整形外科医に相談してみてください。体に発生した瘤は、通常の診察だけでは病名の決定ができません。肉腫など悪性疾患との区別が必要と判断されれば、実際に組織を採取して顕微鏡で確認する必要があります。この場合、整形外科分野の腫瘍を専門とする医師のいる施設(地域のがんセンターや大学病院)に紹介してもらいましょう。

関連項目

 神経鞘腫悪性末梢神経鞘腫瘍レックリングハウゼン病

(杏林大学医学部整形外科学准教授 森井健司)