循環器の病気
突然死(心臓麻痺)
とつぜんし(しんぞうまひ)
Sudden death
初診に適した診療科目:循環器科 内科
分類:循環器の病気 > 不整脈(脈の乱れる病気)
広告
広告
どんな病気か
心臓が原因で突然死亡することを、しばしば心臓麻痺といいますが、心臓麻痺という医学用語はありません。医学的に突然死とは、災害、事故、自殺、他殺などに由来しない予期せぬ突然の死亡を意味します。
突然死はさらに、症状が現れてから死亡に至るまでの時間によって、症状の発現と同時に死亡する瞬間死、症状の発現から1時間以内の死亡、症状の発現から24時間以内の死亡、そして睡眠中で症状の発現から死亡までの経過時間が不明瞭な夜間突然死などに分類されます。
原因は何か
心臓突然死の原因としては、虚血性心疾患と非虚血性心疾患、そしてとくに原因となる心疾患がないものとに分類されます。
突然死を起こしうる虚血性心疾患には狭心症、急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞があります。虚血性心疾患による心臓突然死の機序(仕組み)としては、急性の心筋梗塞で壊死した心筋部分から心破裂が生じるもの、広範囲の心筋梗塞のため重症の心不全になるもの、そして心室頻拍や心室細動などの重症性心室不整脈によるものとがあります。
突然死を起こしうる非虚血性心疾患には、心筋症、心筋炎、WPW症候群(コラム)、遺伝性(先天性)QT延長症候群(コラム)があり、それらによる心臓突然死の機序は不整脈によるものです。
突然死を来す不整脈としては、頻度の高いものから順に、心室細動、心静止、高度徐脈(洞不全症候群あるいは房室ブロック)、心室頻拍があります。心室頻拍では、心拍数が速いと血圧が著しく低下し、ショック状態に陥ります。心室細動になると心室のポンプ機能は失われ、血圧はほぼゼロになるため、5〜15秒で意識が消失します。意識がなくなるとともに全身のけいれんが生じることもあり、適切な治療が行われないと死に至ります。
WPW症候群の患者さんに心房細動が生じると非常に速い心拍になることがあり、まれに心室細動に移行することもあります。遺伝性QT延長症候群の患者さんにも心室細動発作が生じることがあります。洞不全症候群や房室ブロックなどで高度の徐脈(脈が異常に遅くなること)になったり、心静止の状態になったりすることも突然死の原因になります。
近年、はっきりした心疾患がない人に起こる心室細動発作が注目されています。このような心室細動を特発性心室細動と呼んでいます。この特発性心室細動には、10歳以下の小児に多いタイプと青壮年の男性に多いタイプとがあります。前者のタイプは男女に頻度の差はなく、約3分の1に突然死の家族歴があります。運動や精神的緊張が発症の誘因になります。
後者のタイプは、従来、ぽっくり病とか青壮年突然死症候群と呼ばれていました。
そのなかでも最近報告の多いものが、ブルガダ症候群と呼ばれるものです。東アジア人の青壮年男性に発症することが多く、夜間、とくに睡眠中に発作が起こる傾向があります。ブルガダ症候群は非発作時の心電図でも特徴的な波形を示すことがあるので、そのような心電図の波形で、失神などの既往を有する場合や突然死の家族歴を有する場合にはこの疾患が強く疑われます。
このような心電図の波形は不整脈発作のまったくない人でも健康診断などで発見されることがあり、それを無症候性ブルガダ様心電図と呼んでいます。無症候性ブルガダ様心電図の人に突然死が生じる可能性は極めて低いと考えられていますが、なかにはハイリスクの症例が隠れている可能性は否定できないため、現在も研究が行われています。また、一部のブルガダ症候群では遺伝子の異常が発見されており、血液検査で調べることが可能です。
検査と診断
幸運にも蘇生術によって突然死を免れた患者さんには、その後の徹底的な原因究明が必要になります。24時間ホルター心電図、運動負荷心電図、心エコー検査(超音波)、心臓カテーテル、心臓電気生理学検査などが必要になります。神経専門医による診察や脳CT、脳MRI、脳波などの検査も重要です。
治療の方法
徐脈性不整脈が明らかになった場合には、心臓ペースメーカー(コラム)の植込術を行います。頻脈性不整脈が明らかになった場合には、再発作が死をまねくことを防ぐ目的で、植込型除細動器(コラム)の植込術を行います。
併用療法として、抗不整脈薬の内服や高周波カテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)を行うこともあります。
ペースメーカー
ペースメーカーは、電池・心拍の感知部品・電気刺激生成部品からなる本体と、心臓と本体を結びつける電線部分(リード)とから構成されます。徐脈が現れた時のみ心臓を刺激することによって心拍数を適正化し、高度徐脈による症状の出現を予防します。
適応(選択)
ペースメーカー植え込みの医学的適応決定に際しては、症状の強さおよび徐脈との因果関係を考慮します。
植え込みの適応については、2001年に日本循環器学会が作成したガイドラインのクラスⅠ‥「有益であるという根拠があり、一般に同意されている」を、引用します。
・洞不全症候群‥脳虚血や心不全症状があり、それが洞機能低下などによることが確認された場合
・房室ブロック‥徐脈による明らかな症状を来す第Ⅱ度、第Ⅲ度房室ブロック
このほかに、徐脈性心房細動、2枝および3枝ブロック、過敏性頸動脈洞症候群・神経調節性失神に対してもペースメーカー植え込みの適応となる場合があります。
種類
心臓のどこを刺激するかによって、すなわちペーシング用リードを心臓のどこに入れるか(右心房、右心室、右心房と右心室、冠静脈洞)によってペースメーカーの種類が異なります。
また、ペースメーカーからの刺激が出始める設定最低心拍数を60/分などに固定するタイプや、人の活動を感知して、体の動きに応じて刺激心拍設定数が自動的に上昇するようなレート応答型のタイプもあります。
方法
X線装置が備わった手術室(あるいは心臓カテーテル検査室)において、鎖骨の下方にある静脈にリードを挿入します。先端部を右心房や右心室の壁に留置固定し、リードの他の端を本体に接続し、本体を胸壁の皮下に作成したポケット部に収めて終了です。
植え込み後
植え込んだ後は、6〜12カ月の間隔で外来でペースメーカーの機能に不調がないか、電池の残量は十分かなどについてチェックします。電池の寿命が尽きかけたら入院のうえ、ペースメーカー本体のみ交換を行います。
WPW症候群
1930年に3名の研究者が特徴的な症例(外見は健康な青年がしばしば頻拍発作を起こし、心電図上で脚ブロックを示す)を学会誌に報告したのが始まりです。米国のウォルフ、ホワイト、英国のパーキンソンが共著で「健常な若い人にみられる発作性頻拍を伴うPR短縮の脚ブロック」という論文を発表しました。この論文から、ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群、現在では頭文字をとったWPW症候群として知られるようになりました。
WPW症候群の本質は、房室結節以外に心房と心室を結ぶ副伝導路が生まれた時からあることで、心房から心室へ副伝導路を伝わる場合にデルタ波がみられます。常にデルタ波が存在する例を顕性WPW症候群、デルタ波が時々認められる例を間欠性WPW症候群、心室から心房へだけ副伝導路伝導がありデルタ波を示さない例を潜在性WPW症候群といいます。
デルタ波のある例に心房細動が生じると、房室結節伝導とは異なり、心房興奮が副伝導路を介して頻回に心室へ伝えられるために心室興奮も頻回になります。QRS幅は広くなり心室室興奮数が多くなるために心室頻拍と見間違いますが、RR間隔が不規則なことから区別できます。このためWPW症候群に心房細動が生じると偽性心室頻拍といわれます。
偽性心室頻拍の心室興奮頻度が高くなると心室細動へ移行する可能性があるので、偽性心室頻拍は早期に停止させるべきです。
QT延長症候群
どんな病気か
QT延長症候群は、心電図でQTと呼ばれる部分の持続時間が正常な範囲を著しく超えて延長していて、トルサード・ド・ポアンツと呼ばれる特徴的な心室頻拍を生じる症候群です。
トルサード・ド・ポアンツとは、日本語では倒錯型多形性心室頻拍と訳されることもある不整脈で、この心室頻拍が起きると失神やけいれんが生じます。頻拍が自然停止せずに、心室細動といわれる不整脈にまで進行した場合は死に至ります。
この症候群は、先天性のものと後天性(二次性)のものとに分類されます。先天性のものは遺伝性で、QT延長に聴力障害を伴うものと伴わないものとがあります。後天性のQT延長症候群は、薬剤の投与によって引き起こされたり、電解質の異常(低カリウム血症や低マグネシウム血症)や徐脈(脈が異常に遅くなること)によって引き起こされたりします。
QTを延長させる可能性がある薬剤は抗不整脈薬、抗生剤(マクロライド系)、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、向精神薬、抗うつ薬、抗潰瘍薬、脂質異常症治療薬など多岐にわたっています。同じ薬剤でも著しくQTが延長する人と延長しない人がいることから、後天性QT延長症候群でも先天性の異常が潜在している可能性もあります。
診断と治療
先天性QT延長症候群の診断は、心電図所見、失神発作の有無(とくにストレス後の失神の有無)、血縁者にQT延長や突然死した人がいるかどうか、などを基準になされます。
近年、遺伝子診断によっても診断が可能になり、先天性QT延長症候群のなかにさらにいくつかのタイプが存在することもわかってきました。
予防治療としては薬物療法があり、徐脈を伴う症例には人工ペースメーカーの植込術も有効です。あるタイプでは薬剤が極めて有効ですが、症状がなくなっても内服を続けなくてはなりません。もちろん、QTを延長させる可能性のある薬剤は禁忌となります。
また、一部のQT延長症候群では、運動や精神的ストレス、水泳、夜間睡眠中の騒音による急な覚醒(目覚まし時計、電話)などがトルサード・ド・ポアンツの誘因になる可能性があるので、そのような誘因を避けることも重要です。一方、心停止の病歴のある症例では、確実な突然死の予防治療として植込型除細動器(コラム)が推奨されます。
植込型除細動器
装置の概要
植込型除細動器は、命に関わる重症の不整脈を治療するための体内植込型治療装置です。この機械は不整脈の発生を予防するものではありませんが、常に患者さんの心臓の動きを監視していて、重症の心室不整脈(心室頻拍と心室細動)が発生した時にはすばやく反応して電気治療を行い、発作が死をまねくことを防ぎます。植込型除細動器は、一般的には英文名の頭文字をとってICDと呼ばれています。
植込型除細動器のシステムは約70gの本体と、それにつながるリード線から構成されています。本体は、電池とマイクロコンピュータが搭載されたチタン製の容器でできています。
通常、左前胸部の皮下に本体を植え込みます。リード線は血管(静脈)をとおして心臓内に留置します。リード線には、心内の心電図を植込型除細動器本体に送り、常に心臓の動きを監視するはたらきと、不整脈が起こった時に本体からの電気治療を心臓に伝えるはたらきがあります。
装置による治療の方法
植込型除細動器はあらかじめプログラムされた方法で、心室細動や心室頻拍を止めます。
たとえば、心室頻拍が起こった場合には、まず通常のペースメーカーのような電気刺激で頻拍より少し速くペーシングをすることで治療を始めます。ペーシングを中止すると心室頻拍も止まることがあり、これを抗頻拍ペーシング治療といいます(図24)。何回かこのような抗頻拍ペーシング治療を行っても心室頻拍が止まらない場合は、弱い電気ショックによる治療を行います。これをカルディオバージョンといいます。
まず弱い電気ショックで治療を行い、それでも止まらない時にはもう少し強いエネルギーを出すというプログラムを組むこともできます。この治療の時には“不意に胸をたたかれたような感じ”になります。一方、心室細動発作が生じた場合には、意識は完全に消失し、一刻の猶予もありませんので、ただちに強い電気ショックによる治療が行われるようになっています(図24)。
植込型除細動器本体内に搭載されたマイクロコンピュータには、生じた不整脈発作や治療の記録が保存されていて、担当医師が体外から別のコンピュータでそれを読み取り、あとで確認することができます。その結果をもとにして患者さんの病状に合うように、体外から電気治療のプログラムを組み直したり、服薬内容を変更したりすることができます。何回も電気治療が繰り返される場合には、心室不整脈を専門とする施設におけるカテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)による治療が有効です。