循環器の病気

心室細動

しんしつさいどう
Ventricular fibrillation

初診に適した診療科目:循環器科 内科

分類:循環器の病気 > 不整脈(脈の乱れる病気)

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どんな病気か

 前述の心室頻拍は、異常に速い心拍ではあるものの、心室には規則的な収縮があります。しかし、心室細動(VF)では心室の筋肉の規則的な収縮は失われ、ただ不規則に細かくけいれんしているだけになります。心電図上でも規則的な波形は消え、不規則に震えるような波形だけになります。

 心室細動になると心室のポンプ機能は失われ、血液を送り出せなくなります。結果として血圧はほぼゼロになり、脳は虚血状態になり意識は消失し、そのまま心室細動が続けば死に至ります。心室細動が自然におさまることはまれです。

原因は何か

 急性心筋梗塞や心不全の進行に伴って心室細動が起こったり、全身状態の悪化で生じた電解質の異常(体液のミネラル成分のバランスが大きく崩れること)から心室細動が起こることがあります。このような心室細動を二次性心室細動ということがあります。また、本来は不整脈を治すための抗不整脈薬やその他の薬剤によって、かえって心室細動が生じやすくなることもあります。

 一次性心室細動は、原因となる心疾患や電解質の異常などの誘因がない人に突然生じるもので、病態にはいまだ不明な点が多く残っています。QT延長症候群(コラム)やブルガダ症候群といった病気では、普段でも心電図の波形に異常が現れますが、このような病気では心室細動が現れやすいことがわかっています。

症状の現れ方

 心室細動が生じると心室のポンプ機能が失われ、血圧はほぼゼロになるため、5〜15秒で意識が消失します。意識消失とともに、全身けいれんが生じることもあります。

治療の方法

 心室細動が起こっている時、心室の筋肉では無秩序で不規則な電気的興奮が生じています。この無秩序な電気的興奮が自然におさまり、心室細動がやむことはまれです。

 胸部から直流電気ショック通電を行うと心室細動がやみます。これを直流通電除細動といいますが、心室細動に対する最も確実な治療法です。

 心室細動に陥ってから時間がたてばたつほど、除細動の成功率は低下します。また、時間がたてば、仮に除細動が成功しても脳に酸素が供給されなかった時間が長くなり、低酸素脳症の後遺症が残る可能性が高くなってしまいます。

病気に気づいたらどうする

 病院内で発症した心室細動なら早急に除細動を行うことが可能なので、救命の確率が高いといえます。しかし、院外で発症した心室細動では、救急隊による直流通電除細動までの時間、およびその間の蘇生術の施行の有無が救命の可能性を決定するといえます。

 適切な治療が行われないと、3〜5分間で脳死になる可能性が高くなるといわれています。直流通電除細動が行われるまで心臓マッサージを行えば、蘇生の成功率を上げ、脳後遺症の発生率も下げることができます。

 最近、自動体外式除細動器(AED)が公共の場所に置かれることが多くなってきましたが、一般市民による早期の除細動が心室細動の患者さんの蘇生率改善に大きく寄与してきています。AEDは消防署や日本赤十字社で使用方法の講習会が開かれていますが、講習会を受けていない人でも簡単に使用できるような平易な構造になっています。

 まれですが、自然におさまる心室細動では意識が回復します。このような場合でも、再び心室細動が発生する可能性もあるので、やはり早急な受診が必要です。

 心室細動から救命された患者さんには、心室細動を予防する治療とともに、心室細動が再発した場合でも確実に救命がなされるように植込型除細動器(コラム)の植え込みがすすめられます。

(横浜労災病院不整脈科部長 野上昭彦)

QT延長症候群

どんな病気か

 QT延長症候群は、心電図でQTと呼ばれる部分の持続時間が正常な範囲を著しく超えて延長していて、トルサード・ド・ポアンツと呼ばれる特徴的な心室頻拍を生じる症候群です。

 トルサード・ド・ポアンツとは、日本語では倒錯型多形性心室頻拍と訳されることもある不整脈で、この心室頻拍が起きると失神やけいれんが生じます。頻拍が自然停止せずに、心室細動といわれる不整脈にまで進行した場合は死に至ります。

 この症候群は、先天性のものと後天性(二次性)のものとに分類されます。先天性のものは遺伝性で、QT延長に聴力障害を伴うものと伴わないものとがあります。後天性のQT延長症候群は、薬剤の投与によって引き起こされたり、電解質の異常(低カリウム血症や低マグネシウム血症)や徐脈(脈が異常に遅くなること)によって引き起こされたりします。

 QTを延長させる可能性がある薬剤は抗不整脈薬、抗生剤(マクロライド系)、抗真菌薬、抗ヒスタミン薬、向精神薬、抗うつ薬、抗潰瘍薬、脂質異常症治療薬など多岐にわたっています。同じ薬剤でも著しくQTが延長する人と延長しない人がいることから、後天性QT延長症候群でも先天性の異常が潜在している可能性もあります。

診断と治療

 先天性QT延長症候群の診断は、心電図所見、失神発作の有無(とくにストレス後の失神の有無)、血縁者にQT延長や突然死した人がいるかどうか、などを基準になされます。

 近年、遺伝子診断によっても診断が可能になり、先天性QT延長症候群のなかにさらにいくつかのタイプが存在することもわかってきました。

 予防治療としては薬物療法があり、徐脈を伴う症例には人工ペースメーカーの植込術も有効です。あるタイプでは薬剤が極めて有効ですが、症状がなくなっても内服を続けなくてはなりません。もちろん、QTを延長させる可能性のある薬剤は禁忌となります。

 また、一部のQT延長症候群では、運動や精神的ストレス、水泳、夜間睡眠中の騒音による急な覚醒(目覚まし時計、電話)などがトルサード・ド・ポアンツの誘因になる可能性があるので、そのような誘因を避けることも重要です。一方、心停止の病歴のある症例では、確実な突然死の予防治療として植込型除細動器(コラム)が推奨されます。

(横浜労災病院不整脈科部長 野上昭彦)

植込型除細動器

装置の概要

 植込型除細動器は、命に関わる重症の不整脈を治療するための体内植込型治療装置です。この機械は不整脈の発生を予防するものではありませんが、常に患者さんの心臓の動きを監視していて、重症の心室不整脈(心室頻拍と心室細動)が発生した時にはすばやく反応して電気治療を行い、発作が死をまねくことを防ぎます。植込型除細動器は、一般的には英文名の頭文字をとってICDと呼ばれています。

 植込型除細動器のシステムは約70gの本体と、それにつながるリード線から構成されています。本体は、電池とマイクロコンピュータが搭載されたチタン製の容器でできています。

 通常、左前胸部の皮下に本体を植え込みます。リード線は血管(静脈)をとおして心臓内に留置します。リード線には、心内の心電図を植込型除細動器本体に送り、常に心臓の動きを監視するはたらきと、不整脈が起こった時に本体からの電気治療を心臓に伝えるはたらきがあります。

装置による治療の方法

 植込型除細動器はあらかじめプログラムされた方法で、心室細動や心室頻拍を止めます。

 たとえば、心室頻拍が起こった場合には、まず通常のペースメーカーのような電気刺激で頻拍より少し速くペーシングをすることで治療を始めます。ペーシングを中止すると心室頻拍も止まることがあり、これを抗頻拍ペーシング治療といいます(図24)。何回かこのような抗頻拍ペーシング治療を行っても心室頻拍が止まらない場合は、弱い電気ショックによる治療を行います。これをカルディオバージョンといいます。

 まず弱い電気ショックで治療を行い、それでも止まらない時にはもう少し強いエネルギーを出すというプログラムを組むこともできます。この治療の時には“不意に胸をたたかれたような感じ”になります。一方、心室細動発作が生じた場合には、意識は完全に消失し、一刻の猶予もありませんので、ただちに強い電気ショックによる治療が行われるようになっています(図24)。

 植込型除細動器本体内に搭載されたマイクロコンピュータには、生じた不整脈発作や治療の記録が保存されていて、担当医師が体外から別のコンピュータでそれを読み取り、あとで確認することができます。その結果をもとにして患者さんの病状に合うように、体外から電気治療のプログラムを組み直したり、服薬内容を変更したりすることができます。何回も電気治療が繰り返される場合には、心室不整脈を専門とする施設におけるカテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)による治療が有効です。

(横浜労災病院不整脈科部長 野上昭彦)

図24 植込型除細動器の作動模式図図24 植込型除細動器の作動模式図