女性の病気と妊娠・出産

妊娠中の日常生活

にんしんちゅうのにちじょうせいかつ
Daily life during pregnancy

初診に適した診療科目:産婦人科 産科

分類:女性の病気と妊娠・出産 > 妊娠と出産

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 妊娠したからといって、病気になったわけではないので、家に閉じこもって安静にする必要はありません。心身をリラックスさせて、妊娠期間を過ごすことが大切です。

睡眠、休息

 妊婦は、日々大きくなっていく胎児や子宮を抱え、体重も増えるうえ、骨盤を形成する骨間の靭帯が緩んでくることもあって、疲労しやすくなります。また、あお向けに寝ると、大静脈が大きな子宮で圧迫されて血圧が下がる仰臥位低血圧症候群を起こして苦しくなるため、睡眠障害を起こすことがあります。

 そこで、妊娠していない時に比べ、十分な休息と睡眠をとる必要があります。そのためには、夫(パートナー)をはじめ家族の協力も必要です。また、あお向けで苦しくなる時は、横向きで寝るとよいでしょう。

運動

 適度な運動は、過度の体重増加を予防し、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の発症を予防する効果があるだけでなく、便通を整える利点もあります。しかし、やりすぎると疲れてしまったり、子宮が収縮したり、出血したりすることもあります。また、妊娠は体のバランスをとりにくくするので転びやすくなり、思わぬ事故を招くことがあります。

 本格的な運動ではなく、散歩に出て、外の空気にふれ、気分をリフレッシュするだけでも意義があります。また、洗濯や掃除などの家事もある程度の運動にはなります。エアロビクスや水泳などの運動を、適切な環境で指導員のもとに行うこともすすめられています。

 ただし、こうした運動を自分の判断で勝手に行うことは危険なので、必ず医師や助産師と相談して行うようにしましょう。また自転車での外出は、妊娠後期になるとバランスをとることが難しくなり、サドルの刺激で出血したりすることもありうるので、注意が必要です。

旅行

 妊娠中の旅行は気分転換にもなり、とくに産科的な異常がないかぎりは差し支えありません。ただし、次の点に注意が必要です。

①海外旅行は避けるべきです。長時間のフライトや時差のずれなどは、妊婦に大きな負担となるからです。また飛行機内や外国で切迫早産などになった場合、十分な対応をとれないことが多いのも問題です。さらに、海外の医療費は非常に高額であることが多く、旅行保険も妊娠のトラブルには使えないので、覚悟が必要です。

②登山やハイキング、スキーなどの激しい運動を目的とする旅行は、早産などのトラブルを招きかねないので避けるようにします。

③旅行に行く場合には必ず席を確保して、確実に座って行けるようにします。混雑している時期に自由席で行くようなことはいけません。

④母子健康手帳と健康保険証は常に携帯します。

⑤出発前に、医師、助産師に相談します。

栄養

 妊娠期間の体重増加は普通の体形の方で約12㎏を目安にしますが、太り気味の方は体重増加をこれより少し抑えることがすすめられます。

 赤ちゃんと2人分食べるという考えは間違いです。間食や炭酸飲料などは避けるようにし、3食をきちんととるようにします。また、日本人の食生活は塩分を多く摂取する傾向にあるので、減塩に努めるようにします。

嗜好品

 たばこは、妊娠中は禁止です。喫煙の習慣がある妊婦には流産や周産期死亡が多く、低出生体重児も多いので、本人はもちろん家族も禁煙すべきです。

 また、飲酒も胎児に悪影響があり、妊娠中はお酒を飲まないようにしましょう。

清潔

 妊娠中は発汗が多くなるので、入浴して体を清潔に保つようにします。衣服はゆったりとしたものを着用します。

 また、妊娠中はむし歯になりやすいので、歯みがきを励行します。すでにむし歯がある場合は、歯科を受診し、妊娠していることを告げたうえで治療を受けるようにします。

 乳房も、妊娠中から少量の乳汁分泌がみられるので、乳頭部の清潔と手入れを怠らないようにします。

 妊娠中はおりもの(帯下)が増加し、カンジダなどの感染が起こりやすいので、毎日の入浴やシャワーで局所を清潔に保ちます。

排泄

 妊娠中は大きくなっている子宮で腸が上方に押し上げられてしまうため、腸の動きが制限され、また、いきむこともしにくくなるため、便秘になります。

 野菜やイモ類などの食物繊維を十分にとり、毎日の生活を規則正しくして、一定の時間に排便する習慣をつけるようにします。

性生活

 妊娠中の性行為が流産や早産を引き起こすというデータはありませんが、妊娠初期と末期の性行為は出血、破水などの原因になるので避けるべきです。感染を防止するため、コンドームを着用します。

職場

 異常がないかぎり、妊娠を理由に仕事を休む必要はありません。ただし、長時間の立ち仕事は早産の原因になりうるので、外してもらうようにします。体の状態をみながら、必要な時は仕事内容の軽減や十分な休息がとれるように配慮してもらうとよいでしょう。

(東京大学医学部附属病院女性診療科・産科准教授 藤井知行)