お年寄りの病気

肝胆膵疾患

かんたんすいしっかん
Diseases of liver, gall bladder and pancreas

分類:お年寄りの病気 > 外科疾患

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原発性肝がん

 高齢者の原発性肝がんの特徴として、女性の頻度が高いこと、HB抗原陽性率や肝硬変合併率が非高齢者に比べて低いことがあげられます。第12回全国原発性肝がん追跡調査報告によれば、肝がん手術を受けた患者さんのうち75歳以上の人は男性では3681人中124人(3・4%)、女性では893人中38人(4・3%)と報告されています。高齢者の肝がんでは比較的肝機能のよいものが多く、浸潤型が少なく、門脈腫瘍塞栓の頻度がやや低率で、組織学的分化度が高分化のものが多いのです。

 したがって治癒切除により長期生存を期待できる患者さんが多く、手術の適応は非高齢者と変わりません。手術前後の管理を注意深く行えば、安全な肝切除が可能です。

転移性肝腫瘍

 肝腫瘍のなかで最も頻度が高く、がん死亡者の25〜50%、消化器系腫瘍の約半数にみられます。肝切除の適応は、原発巣が根治的に切除されており、肝以外に転移がなく肝病巣が切除可能範囲内に限られていて、全身状態が肝切除に耐えられることなどがあげられます。肺に転移がみられても、これが切除可能な場合には肝切除の適応となります。大腸がんではこのような条件を満たす例が多いのです。

 転移性肝腫瘍では肝機能は正常であることが多いので、肝切除術は非常に安全に行うことができます。

胆石症

 胆石症は高齢者に高頻度にみられる疾患です。高齢者にみられる胆石症では、無症状のものが大部分です。剖検例957人中、生前に症状があり、胆嚢摘出術を受けていたのは155人(16・2%)にすぎませんでした(図19)。無症状のまま経過する患者さんには、とくに治療の必要はありません。

 一方、胆石症の症状は急性あるいは慢性胆嚢炎に伴って生じるもので、主な3つの徴候は上腹部痛、発熱、黄疸です。また、上腹部の不定愁訴にとどまることも少なくありません。症状のあるものは治療の適応となります。

 治療としては、腹腔鏡下胆嚢摘出術、開腹下胆嚢摘出術、内視鏡的胆管結石摘出術、経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTGBD)が適応を選んで行われます。

胆道がん

 胆道がんは胆嚢がんと胆管がんの2つに大別されます。『剖検輯報』によれば、胆嚢がんの頻度は全体では1・9%ですが、60歳以上では2・5%と増加します。男女比は1対3と女性に高率に認められます。胆管がんは、剖検例の0・01〜0・7%にみられ、男女比は1対0・76とやや男性に多くみられます。

 胆嚢がんには高率に胆嚢結石を合併することから、胆石症は胆嚢がんの背景因子として重視されてきました。私たちの検索では胆嚢結石957人の胆嚢がん合併頻度は6・0%と、結石のない3525人における胆嚢がんの頻度1・0%に比べて6倍と有意に高率でした(表18)。

 胆嚢がんや胆管がんに特有の症状はなく、多くは胆石症、胆道炎に似た症状や所見を示します。胆嚢がんのなかには無症状で、胆嚢摘出術の時に偶然発見されるものがあり、この場合は予後がよいものがあります。症状があるのはいずれも進行がんであることが多く、予後は不良です。胆嚢壁には粘膜筋板がなく、筋層が薄いため、容易に漿膜下層や、それよりも深く浸潤しやすい特徴をもっています。

 外科的治療は進行度(とくに深達度)に応じて単純胆嚢摘出術、拡大胆嚢摘出術、肝右葉あるいは部分切除などに胆管切除術やリンパ節郭清を組み合わせて行います。粘膜がんは単純胆嚢摘出術で十分です。固有筋層までの浸潤がんは、全層胆嚢摘出術+リンパ節郭清、漿膜下層までの浸潤がんは、系統的肝亜区域S4a・5切除術(または肝床切除術)+胆管切除術+リンパ節郭清、それ以上の深達度のものは症例に応じて臓器の合併切除を付加します。

急性膵炎

 膵臓の浮腫を中心とした軽症のものから、膵液の自己消化(膵液の消化酵素が膵臓自体を消化する)による実質壊死・出血を伴う重症のものまで、いろいろな程度のものがあります。成因としてはアルコールや胆石によるものが多いのですが、高齢者ではとくに胆石性のものが多くなります。

 通常は上腹部の激痛で発症し、悪心・嘔吐を伴います。血性アミラーゼ値やCRPが上昇し、超音波やCTで膵腫大、実質内部の不均一、膵周辺への炎症の波及または膵液貯留などがさまざまな程度にみられるようになります。

 治療は原則として保存的に行われます。主なポイントは①膵臓の安静、②疼痛の除去、③ショック、感染の予防・治療などです。しかし、集中治療室(ICU)治療で改善しないものや感染性壊死が認められるものに対しては、外科的治療を考慮します。

 高齢者の急性膵炎には、原発性急性化膿性膵炎と呼ばれるべき高齢者ならではの特徴をもった一群があります。その特徴は以下のとおりです。①臨床症状に乏しく、臨床経過は数日以内と短く、生前に腹痛などを訴えて急性膵炎と診断されることはまれである。②剖検時の膵臓の肉眼所見では脂肪壊死や出血は軽度で、腹膜炎が認められ、胆石の合併頻度は低い。③病理組織学的には膵管の破綻や菲薄化が広汎にみられ、それに伴い小膿瘍形成や蜂窩織炎性の多核白血球浸潤が小葉間間質に広がっているが、脂肪壊死や実質壊死は軽度である。

 膵液による自己消化である実質壊死や脂肪壊死が軽度であるのは、膵臓の老人性変化が理由として考えられます。

膵がん(通常型膵がん)

 近年増加の傾向にあり、高齢者に多くみられるため、高齢者の診療にあたっては重要な疾患です。

 通常型膵がんは膵管由来の浸潤性膵管がんで、60〜80歳の男性に好発し、症状には腹痛、上腹部不快感などの不定愁訴が多くみられます。次第に黄疸、体重減少などが現れてきます。既往歴に糖尿病や慢性膵炎がある患者さんもいます。血液学的には肝機能異常や高アミラーゼ血症などがみられますが、CEAやCA19‐9といった腫瘍マーカーの上昇も重要な所見となります。

 外科的治療の問題点として、膵臓が後腹膜臓器であること、早期に広範な浸潤をすること、大多数が進行がんであることなどから治療成績は不良です。日本での拡大手術と欧米での標準郭清の成績には差はみられません。

 欧米の報告では、膵がんの切除率は25%で、5年生存率は9%、5年生存した人の約半数は膵がんの再発で死亡するとされています。これらを計算すると、膵がんから生還できるのは100人に約1人ということになります。日本における最近の報告でも5年生存率は9%と欧米と同様の報告となっています。

 通常型膵がんは、診断がつけば手術を考慮します。遠隔転移のないことや局所の進展が過度でないことが切除の適応となります。拡大リンパ節郭清、血管合併切除は予後の改善にはつながりませんが、がんを取りきるR0の手術は重要です。その点で膵頭部の神経叢の郭清はとくに重要となります。

 補助療法として放射線治療や化学療法があります。最近では塩酸ゲムシタビンやTS‐1などの抗がん薬による治療によって局所の制御や肝転移の予防に対して少しずつ効果が得られるようになってきています。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

 最近、膵管内乳頭粘液性腫瘍という新しい概念の膵腫瘍・がんが注目を浴びています。その特徴として、①多量の粘液産生とそれによるファーター乳頭部の開大および主膵管の著明な拡張、②膵管内を乳頭状に増殖して進展し、③浸潤傾向に乏しく、④予後がよい、などがあげられます。主膵管型と分枝型に分類されます。

 最近この腫瘍はIPMNとして世界的に認知されるようになりました。平均初発年齢は66歳と高齢で、男女比は2・2対1と男性に多くみられます。膵頭部に存在する症例が多く70%に及びます。膵管内に存在するうちは予後がよいのですが(図20)、他臓器に浸潤したものでは予後不良となります。高齢者に多く発生することから手術の適応とタイミングが検討されています。

 手術適応については、主膵管型であればそれだけで手術適応、分枝型は径が約3㎝以上、隆起性病変や肥厚した隔壁の存在、主膵管が7㎜以上などが手術適応とされます。

膵臓の外科手術

 ハーバード大学の検索では、膵切除術はこの10年間の前半と後半を比べると明らかに増加しています。後半では嚢胞性膵疾患が増え、慢性膵炎の手術が減少しています。

 胃内容の停滞は、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術(PpPD)において、通常の胃切除を伴う膵頭十二指腸切除術(PD)に比較して有意に高率で、これが在院日数を増加させている原因になっています。

 高齢者でも膵頭十二指腸切除術の適応はあります。

 現在行われている膵頭十二脂腸切除術では膵空腸吻合の部分に食事が通らないようにしてあるので、多少の縫合不全があっても食事を開始できるため、食事の開始日が早く、臨床的に安心感があります。山形大学では、これまで75歳以上の高齢者約10%を含む145人に行いましたが、いずれの患者さんも元気に退院しました。

(山形大学消化器・乳腺甲状腺・一般外科(第一外科)主任教授 木村 理)

図19 剖検例にみられた胆石症の頻度 図19 剖検例にみられた胆石症の頻度

表18 胆嚢がんと胆石との関係 表18 胆嚢がんと胆石との関係

図20 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の予後 図20 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の予後