代謝異常で起こる病気

メタボリックシンドローム

分類:代謝異常で起こる病気

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 糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病は、お互いに合併しやすく、肥満、とくに内臓肥満が密接に関わっています。これらの疾患は単独でも動脈硬化を促進し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患の発症を、健常者に比べて2~3倍増加させます。そしてこれらの疾患の合併は、その危険性をさらに数倍増加させるのです。この点の注意喚起を促す意味で、肥満あるいはインスリン抵抗性をベースにしたこれら生活習慣病の合併は、古くはシンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群あるいはマルチプルリスク症候群と呼ばれてきました。

 また、脂肪組織は古くはエネルギーを貯蔵する倉庫とのみ考えられてきましたが、最近になり脂肪細胞は多くのホルモンやサイトカインと呼ばれる生理活性物質(アディポサイトカインと総称される)を産生し、糖・脂質代謝や血圧調節に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました(図14)。

 たとえば、レプチンやTNF-αはインスリン抵抗性をもたらします。一方、アディポネクチンは、インスリン抵抗性を改善して糖・脂質代謝を改善するばかりでなく、血管を拡張させて血圧を低下させるのですが、肥満者や糖尿病患者や高血圧患者では低値であることが明らかにされています。このような背景から、内臓肥満に起因するさまざまな代謝異常の集積を、最近では世界的にメタボリックシンドローム(代謝症候群)と呼ぶようになっています。

 2005年に日本動脈硬化学会をはじめとする8学会が、日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準を策定し、発表しました。表18に診断基準を示します。内臓肥満があることが必須項目とされ、厳密にはへその高さで腹部CT写真をとり、内臓脂肪面積が100cm2以上であれば内臓肥満があると判定します。ただし、日常臨床の場では、立位で軽く息を吐いた状態で、へその高さで腹囲(ウエスト周囲径)を測定し、男性では85㎝以上、女性では90㎝以上を内臓肥満ありと判定します。そのうえで、脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖の3つの異常のうち2つ以上を合併するとメタボリックシンドロームと診断することになります。皆さんはいくつ異常を持っているか、チェックしてみてください。

 これらの異常の一つ一つは軽微でも、複数の異常が集積することにより、動脈硬化がより進行し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患をひき起こす危険性が飛躍的に増加することが重視されています。実際、北海道の端野・壮瞥町の男性住民を追跡した検討では、メタボリックシンドロームがあると、そうでない人に比べて心血管系疾患が1.8倍起こりやすいことが報告されています。

 2016年国民健康・栄養調査によると、20歳以上において、メタボリックシンドロームが強く疑われる人の比率は、男性27.0%、女性10.0%、予備群と考えられる人の比率は、男性24.1%、女性8.2%でした。40~74歳でみると、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドロームが強く疑われる人または予備群と考えられます。2007年の少し古い推計になりますが、メタボリックシンドロームの該当者数は約1070万人、予備群者数は約940万人、併せて約2010万人と推定されています。厚生労働省はこのような状況に鑑み、2008年からメタボリックシンドロームに焦点をあてた「特定健診・特定保健事業」を開始しています。国をあげてメタボリックシンドロームを診断・管理・治療し、5年後、10年後の心血管系疾患を減らそうとする壮大な試みということができます。

(埼玉医科大学名誉教授・同大学かわごえクリニック院長 片山茂裕)

図14 肥満とアディポサイトカインの変化図14 肥満とアディポサイトカインの変化

表18 日本のメタボリックシンドローム診断基準表18 日本のメタボリックシンドローム診断基準