こころの病気

マスコミと自殺防止

分類:こころの病気

広告

広告

 ある人物の自殺が他の複数の自殺を引き起こす現象は「群発自殺」と呼ばれています(高橋、1998、2006)。たとえば、1986年4月にはアイドル歌手岡田有希子さんの自殺が大々的に報じられ、その後の2週間に青少年の後追い自殺が約30件続きました。そのほとんどが歌手と同じく、高所からの飛び降りで亡くなっていて、手段も模倣されていました。

 この年には、いじめ自殺が大きく取り上げられたこともあり、青少年の自殺が前後の年に比べて約4割も増加してしまいました。最近では、インターネット自殺、硫化水素自殺なども群発自殺の一例といえるでしょう。

 このように、センセーショナルな報道がハイリスクの人の自殺の引き金になりかねない一方で、適切な報道が自殺予防につながることも事実です。そこで、世界保健機関は自殺報道に関して次のように提言しています(WHO、2008)。要するに自殺そのものだけではなく、予防に力点を置いた報道の必要性を強調しているのです(なお、括弧内は筆者が補足しました)。

①報道を通じ、一般の人々に自殺や自殺予防に関する正しい知識を伝える

②自殺をセンセーショナルに表現したり、正常な行為であるといった表現をしたり、あるいは問題解決の方法として伝える言葉はひかえる

③自殺の記事を目立つ位置に配置したり、過剰に報道を繰り返したりしない(たとえば、新聞の一面や、テレビのトップで扱わない)

④自殺の手段を詳細に伝えない

⑤自殺の場所を詳細に伝えない

⑥見出しに配慮する(見出しに「自殺」を使わないようにする)

⑦写真や映像を使う際には十分に注意する

⑧著名人の自殺報道には特別の注意が必要である

⑨自殺後に遺された人に対して十分に配慮する(遺された人自身がハイリスクの人であり、ケアが必要なことを忘れてはならない)

⑩危機に際してどこで援助を得られるかについての情報を提供する

⑪ジャーナリスト自身も自殺報道によって影響を受ける危険性を認識し、サポート体制を築いておく必要がある

(防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門教授 高橋祥友)