こころの病気

こころの病気の治療薬の副作用(表8)

分類:こころの病気

広告

広告

 統合失調症の治療に抗精神病薬が使われ始めたのは1950年代で、クロルプロマジンの登場でした。その後、ハロペリドールなどが開発されて、とくに陽性症状に有効となりました。これらは定型抗精神病薬(定型)であり、脳のドーパミン受容体の遮断によって回復した陽性症状は脳ドーパミンの過剰な作用が関与しています。

 1996年にリスペリドンを使うようになり、現在は非定型抗精神病薬(非定型)の時代になっています。非定型はセロトニンとドーパミン受容体などを拮抗し、陰性症状に対して回復するようになりました。

①パーキンソン病様の症状(錐体外路症状)

〈急性〉

 定型の副作用で起こる場合があります。

 まず、パーキンソニズムと呼ばれる症状があります。身体が硬くなり、動きが鈍くなり、手指、上肢、頭部、舌などに震えが出て、小股で歩くようになります。顔も仮面のようになり、よだれを流し、発語はゆっくりで、単調となり、字を書くと小さい字になります。

 急性ジストニアは、若い人では1週間以内に、筋肉の緊張異常として、顔や首など身体の筋肉群が収縮し、ひねり運動が出て、首が斜めにねじれたり、舌が突出したりします。

 急性アカシジアは、落ち着いて座っていることができずに、立ったり座ったり歩き回ったりします。焦りや不安、不眠などを伴うこともあります。

 以上のような副作用が出た時には、すみやかに対処すべきです。定型を減らし、非定型の薬に替えたり、抗パーキンソン薬を加えたりして治療することがよいでしょう。

〈遅発性〉

 遅発性ジスキネジアは、定型を長い間服用したのち、あるいは服用を中断すると現れます。入院患者の15〜20%と高頻度です。症状は、口のまわりと顔面の異常運動がよくあります。口をもぐもぐさせ、舌を突き出したり、唇をとがらせたり、舌を動かす時もあります。治療は、クロニジン(カタプレス、降圧薬)が有効です。

 遅発性ジストニアは、急性ジストニアと同じく、突然、筋肉群が意思とは関係なく収縮し、斜頸の症状を生じます。反復的に運動あるいは異常姿勢を起こし、歩行も難しいこともあります。持続的な筋収縮を起こす症候群であり、痛みを伴います。発生頻度は1・5〜2%ですが、治療は困難です。クエチアピン(セロクエル)を使います。

 ピサ症候群は強直したまま屈曲する姿勢が特徴的です。身体の片側のみにジストニアが現れて、その独特な姿勢から命名されました。

 遅発性アカシジアの症状は急性と同様です。治療はクロナゼパム(リボトリール)を使います。

②乳汁分泌

 定型の服用時、出産していないのに乳汁分泌を生じたり、生理不調、無月経になるのは、血中プロラクチンというホルモン濃度が高値になるためです。脳の下垂体前葉という場所で作られるプロラクチン細胞はドーパミンによって、その分泌を抑制されています。定型ではドーパミンを拮抗し、その抑制が外されたために過剰のプロラクチンが血中に放出されます。

 一方、非定型は、プロラクチンを一過性に上昇させても、乳汁分泌や生理不順を生じることは少ないのです。

 この副作用には、定型から非定型に替えるのがよいでしょう。

③水中毒

 こころの治療薬を服用している患者さんが、水分を極端に飲みすぎて1日に3l以上も飲むようになると、血液が薄められて血中のナトリウムの濃度(標準血清濃度128〜130nmol/l)が低下します。血清ナトリウムが115くらいに異常に低下すると、水中毒といわれる症状が出現します。

 最初の症状は、ねむけ、食欲不振、悪心、嘔吐、頭痛、腹痛などで、さらに進行すると、全身けいれんと昏睡を来すこともあります。

 抗うつ薬として初めに使われたのは三環系抗うつ薬(三環系)で、これは脳のモノアミン(セロトニン、ノルアドレナリン)を増加させます。普通は、モノアミンが脳のシナプスで放出されたあとにシナプスに再び取り込まれますが、この抗うつ薬はモノアミンの取り込みを妨害しますから、放出されて残ったセロトニン分子がシナプスの間隙に増え、セロトニンの作用が強められて、うつ病症状が改善します。

 1981年ころになって、四環系抗うつ薬(四環系)が使われるようになり、ノルアドレナリンが作用するようになりました。1999年には、「セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が、さらに2000年に「セロトニン‐ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」が用いられるようになり、うつ病に対して脳のモノアミンの微調整ができるようになりました。

①抗コリン作用

 三環系は、アセチルコリン受容体を妨げて、口や眼の粘膜が乾燥し、眼がかすんだり、便秘、尿閉、心臓の異常を生じます。四環系やSSRIへ替えるのがよいでしょう(四環系、SSRI、SNRIでは副作用は減少)。

②セロトニン症候群

 一般的にまれですが、発症に至る時は24時間内に70%の人に現れます。意識障害(失見当識、錯乱)、不安、焦燥、不眠、気分高揚などがみられ、腱反射亢進、ミオクローヌス、筋強剛、振戦、失調、けいれんなども生じ、さらに発熱、下痢、発汗、頻脈、血圧不安定、流涙、尿閉などが出現することもあります。

 SSRI、SNRI、三環系でも報告があります。治療は、シプロヘプタジン(ペリアクチン)などを使います。

 抗不安薬と睡眠薬(睡眠導入剤)は、ベンゾジアゼピン(BZ)系薬物でほぼ同じ機序です。BZ系薬物は、BZ受容体に結合しますが、GABA(ギャバ)受容体とBZ結合とで複合体を作っています。

 たとえば、抗不安薬のジアゼパムを飲んで、脳内のギャバ受容体の壁にあるBZ受容体に結合しますと、大きなギャバ受容体の全構造が精巧に影響を受けて、ギャバの作用を強めます。その結果、ジアゼパムの小さい刺激でギャバ受容体が活性化され、水路チャネルが口をあけて塩素イオンが細胞内へ流れ込みます。塩素イオンが神経細胞膜に作用して、ギャバ受容体に特有な抑制的信号を発します。ここで、患者さんの不安が抑制されるのです。

 BZ系薬物は、鎮静催眠・筋弛緩・抗けいれん作用をもつので、有害な副作用を生じます。

①鎮静作用

 ねむけ、ふらつき、めまい、注意・集中低下、倦怠感、脱力感などがあり、自動車の運転や機械の操作にミスが生じることがあるため、慎重な服用が望まれます。

②アルコール併飲

 アルコールと一緒に飲むと作用が強まりすぎて、意識が薄らいで、判断力が鈍くなり、物忘れが起こります。さらに、怒りや敵意の感情をもつこともあります。アルコールとBZ系薬物は共通受容体をもつので、健忘が進むことがあります。BZ系薬物の常用量の服用でも、依存するようになると、中止した時に離脱症状(コラム)を生じます。

 BZ(ベンゾジアゼピン)系の睡眠薬は抗不安薬と同じ機序です。現在使用されている睡眠薬のほとんどはBZ系で、その作用時間によって超短期作用型、短期作用型、中期作用型、長期作用型の4つのタイプがあります。

 近年、新しい睡眠薬として非BZ系のゾピクロンやゾルピデムが登場し使われるようになりました。この2つは超短期作用型です。ゾルピデム、ゾピクロンの特徴は、BZ系が完全アゴニスト(完全作用薬)であるのに対して部分アゴニスト(部分作用薬)であるため、BZ系より副作用が少なく、抗不安・筋弛緩・抗けいれん作用はほとんどありません。

①持ち越し効果

 睡眠薬は主に夜間にはたらきますが、超短期作用型以外の睡眠薬では翌日にも鎮静が残ります。鎮静作用により、ねむけ、頭重、頭痛、脱力、倦怠感、めまい、ふらつき、言葉も異常になります。注意・集中力が低くなって交通事故なども起こしうるので、注意が必要です。超短期作用型睡眠薬に替えたほうがよいでしょう。

②健忘と意識障害(せん妄)

 薬を服用する前の記憶は保たれますが、薬を飲んだあとから眠るまでのことや、寝入ってから途中で目覚めたあとの出来事などは覚えていません。機序としては、睡眠薬の服用によって出現する情報の記憶機能不全です。

 健忘は薬の作用が続く間は存在します。トリアゾラムなどによる健忘は、少し過量に飲むと、服用後すぐ入眠し、早朝2時から3時半の間、起きて食べたり、誰かと話したとしても、朝にはその内容を覚えていません。たとえば、トリアゾラムは0・125㎎、ゾルピデムは5㎎以内にすべきです。

(メンタルクリニックおぎくぼ院長/東京医科歯科大学名誉教授 融 道男)