腎臓の働きを調べる検査
クレアチニン・eGFR
クレアチニン検査の概要
クレアチニンは、筋肉運動のエネルギー源となる物質が代謝されたあとにできる老廃物です。腎臓の機能が低下して、クレアチニンがうまく尿中に排出されなくなると、血液中に増えてきます。そこで、血液中のクレアチニン値を測定することで、腎臓の機能が低下していないかどうかを調べるのがこの検査です。採血により調べます。しかし、血液中のクレアチニン値が上昇するのは、腎臓の機能が正常なときと比べて50%以下になってからといわれます。また、クレアチニン値は、筋肉の量によって影響を受けやすいこともわかっています。そのため、腎臓の機能低下の指標として、クレアチニン値から推計して導くeGFRがよく用いられるようになりました。
eGFR検査の概要
eGFR(推算糸球体ろ過量)は、血液中のクレアチニン値から年齢と性別で補正して腎臓の働きを推算します。60mL/分/1.73m²とは腎機能が約60%であることを意味しています。この値が少ないほど、腎臓の機能が低下していることがわかります。近年、慢性腎臓病(CKD)が増えていることから、eGFRはCKDの進行度を判断するのにも用いられています。
男性 eGFR(mL/分/1.73m²)=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287
女性 eGFR(mL/分/1.73m²)=男性の推算式×0.739
eGFRの判定値
特定健診の判定値
- eGFR(mL/分/1.73m²)
- 保健指導判定値:60mL/分/1.73m²未満
- 受診勧奨判定値:45mL/分/1.73m²未満
日本人間ドック学会の判定値
- eGFR(mL/分/1.73m²)
- 異常なし:60.0mL/分/1.73m²以上
- 要経過観察(生活改善・再検査):45.0〜59.9mL/分/1.73m²
- 要治療・要精検:44.9mL/分/1.73m²
以下
eGFRに関連する主な病気
慢性腎臓病(CKD)のステージ
ステージ |
eGFR値 (mL/分/1.73m²) |
腎障害の程度 |
1 |
90以上 |
正常または高値 |
2 |
60〜89 |
正常または軽度の低下 |
3a |
45〜59 |
軽度〜中等度の低下 |
3b |
30〜44 |
中等度〜高度の低下 |
4 |
15〜29 |
高度の低下 |
5 |
15未満 |
末期腎不全 |
eGFR検査は慢性腎臓病の早期発見にも役立ちます
腎臓は「沈黙の臓器」といわれ、病気になっても初期にはほとんど症状がありません。また、病気で損なわれた腎臓の機能はもとに戻らないことが多いのです。そのため、腎臓の異常はできるだけ早期で見つけて、生活習慣の改善をはじめとした対策を講じたり、治療することが大切です。その早期発見に役立つのがeGFR検査です。eGFR値はクレアチニン値から糸球体ろ過量を推算するものです。
慢性腎臓病はメタボリックシンドローム関連疾患と深くかかわっています
腎臓の働きは加齢とともに低下していくため、多くの人が慢性腎臓病になるリスクをもっているといえます。また、糖尿病や高血圧は腎臓病の大きな原因であり、肥満や脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病、喫煙なども腎臓病と深く関係しています。そのため、メタボリックシンドロームをはじめとした生活習慣病の予防が慢性腎臓病の予防にもつながります。健診で定期的にeGFR検査も含めた腎臓機能の検査で機能の低下がないかどうかチェックすると同時に、メタボリックシンドロームを早く見つけて生活改善をすることが、慢性腎臓病を防ぐことにもつながります。
軽度の段階なら生活改善で腎臓病に至るのを防いだり、重症化を防げます
腎臓の機能低下は、初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、腎臓の機能低下を放置して進行すると、慢性腎不全に至り人工透析が必要になるなど、生活の質に極度の低下をもたらしかねません。eGFR検査も含めた腎臓機能の検査を定期的に受けることで、腎機能の低下に早めに気づくことが可能です。ごく軽度の段階であれば、生活習慣の改善で病気に至るのを防いだり、重症化しないように進行を食い止めることもできます。腎臓病の治療には、生活習慣の改善は必要不可欠で、進行の度合いによっても心がけることが異なってきます。eGFR検査は、進行度を調べる指標にもなります。
腎機能障害の予防・改善ポイント
- 肥満があれば改善を
- 栄養バランスのとれた食事を
- 塩分は控えめに
- 適度な運動をしよう
- ストレスや疲労をためない
- 十分な睡眠・休養をとる
- アルコールはほどほどに
- 禁煙する
よくある質問Q&A
- eGFR検査で見つかる慢性腎臓病ってどんな病気?
慢性的に進行する腎臓病の総称
慢性腎臓病とは、1つの病気を指すのではなく、徐々に腎臓機能が低下していくさまざまな腎臓病の総称です。eGFRが60未満もしくは尿蛋白(+)以上が3カ月以上続く場合、慢性腎臓病と診断されます。糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症など、メタボリックシンドローム関連疾患と深く関係しているものも少なくありません。近年、透析や移植が必要になる末期慢性腎不全の患者が増加の一途をたどっているため、その予防と治療が注目されています。eGFR検査では、クレアチニンよりも腎機能の低下が把握しやすいので、慢性腎臓病の予防と早期発見につながり、進行度の判断もできる検査として重要視されています。
- 腎臓病には自覚症状がないの?
早期には症状がほとんどなく、健診での早期発見が大切
腎臓の働きは、血液を浄化し尿をつくったり、体内の水分量や成分をコントロールしたりなど、生命維持に欠かせないものです。そのため腎臓は、機能が低下してもかなり進行するまで働きを正常に保とうとし、腎機能が3分の1程度になるまで異常を感じることはほとんどないといわれます。また、糖尿病性腎症の初期はeGFRの低下がみられないため、特定健診の基本検査にはeGFRは含まれておらず、尿たんぱくのほうを重視します(実際は糖尿病の初期にはeGFRが上昇するのです)。進行すると現れる腎機能異常の代表的なサインとしては、尿のにおいや色の変化、むくみなどがあげられます。
- 慢性腎臓病になると、治らないの?
いったん失われた機能は戻らないことが多い
慢性腎臓病になると、いったん失われた腎機能が回復する可能性はほぼないといわれています。したがって、早い段階で気づいて残された腎機能を守り、病気を進行させないことが重要です。そのために症状がなくても、定期的に健診で腎機能をチェックする必要があるのです。慢性腎臓病の早期発見とその治療の大きな目的は、慢性腎臓病の進行を食い止め、末期慢性腎不全に至るのを防いだり遅らせたりすることと、慢性腎臓病によって相互にリスクが高まる虚血性心疾患や脳血管疾患などの発症を防ぐことです。とくに高尿酸血症、高血圧、糖尿病がある場合には十分なコントロールが必要です。健診で異常が指摘されたら、自覚症状がなくても放置せず、必ず生活改善や適切な治療に取り組みましょう。
監修者プロフィール
- 監修
- 和田高士(わだたかし) 医師
- 東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学 教授
- 1981年東京慈恵会医科大学卒業、2008年東京慈恵会医科大学 総合健診・予防医学センター教授を経て、現、東京慈恵会医科大学大学院医学研究科健康科学教授。日本肥満学会評議員、日本動脈硬化学会評議員、日本臨床検査医学会管理医、肥満症診療ガイドラインの執筆も担当。日本人間ドック学会では、理事を務める。